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お兄ちゃんとの大切な想い出 連載161〜170

「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」に掲載した連載161〜166と、「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part8」に掲載した連載167〜170を抽出したものです。番外編もあります。(管理人:お兄ちゃん子)

151〜160
161162163164165
166167168169170
171〜180

●連載161●
2001年12月2日 18時18分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」809-813)

「Uちゃん、だいじょうぶかなー?」

Vが心細げにきょろきょろしています。

「わたしも心配だけど……お兄さんに任せたほうが、良いと思う。
 大騒ぎしたら、Uも帰ってきづらいよ? お弁当食べましょ」

Vがまだしおれているので、わたしは卵焼きを箸でとって、差し出しました。

「はい、あーん」

「あーん、もぐもぐ。美味しいねー。
 ○○ちゃんのお兄さん、料理上手いんだー。
 じゃあ、わたしもお返しー」

Vが自分の弁当箱から箸で一品とって、差し出してきました。
自分が食べる番になると、お兄ちゃんとXさんの視線が気になりましたが、
行きがかり上断るわけにもいきません。

わたしがVの箸からおかずを頬張ると、呆れたのか感心したのか、
Xさんがため息を漏らしました。

「ホントに仲良いねぇ。羨ましいぐらいだ」

「ごめんなさい、じゃあ、おにーちゃんにもあーん」

Xさんは困ったようでしたが、抵抗しても無駄だと悟っているのか、
大人しく口を開けました。

わたしはお兄ちゃんと顔を見合わせました。
見ているほうが恥ずかしい、と思いましたが、わたしが始めたことを、
今さら止めることもできません。

その時、閃きました。
これは二度と訪れないチャンスかもしれない、と。

わたしはできるだけ何気なさを装って、卵焼きを1個取りました。

「……お兄ちゃん、あーん」

お兄ちゃんの顔が唖然として、自然に口が開きました。
すかさず、その口に卵焼きを押し込みました。

「お、おまへ……」

「食べながら喋ったらダメ」

呆然として言葉が出てこないお兄ちゃんを見るのは、これが初めてでした。

わたしは調子に乗っていたようです。

「じゃあ、今度はわたしに。あーん」

口を開けて待っていると、いきなり痛みが頭に降ってきました。

「痛っ!」

「いたいー!」

振り向くと、Uがナメクジを見るような目をして立っていました。

「なに恥ずかしいことしてんねん、○○までいっしょになって。
 通行人がみんな見てるやないか」

恥ずかしい行為に夢中になって、UとYさんが近づいてくるのに
まったく気づかなかったのは失敗でした。

「わたしがおらんときに自分らだけで楽しんで……。
 アンタらの友情はこんなもんやったんやな」

「ご……ごめんなさい」

「ごめんなさいー。でも○○ちゃんが最初に始めたんだよー」

わたしは内心「V、裏切ったわね」と思いました。
YさんがUをなだめに回りました。

「そんなに怒るなよ。Uもホントは羨ましいんじゃないのか?」

UはYさんをキッと睨みつけました。

「ふーん。そんなこと言うんかぁ。兄ぃは○○には優しいなぁ。
 ほんなら今夜にでも兄ぃにおんなじことしてもらお」

「ア、アホ言うな。親父とお袋が見てる前で、そんなことできるか」

「さっき『何でも言うこと聞く』言うたんはウソなん?
 まぁ、2人きりの時でもエエわ」

「勘弁してくれよ〜」

波乱に満ちた昼食が終わり、女性陣3人で休憩所を後にしました。
お兄ちゃんたち男性陣は、そのままお留守番です。

「ねぇ、お兄さんたち、置いてきて良いの?」

「アンタなぁ、これから水着買いに行くんやで。
 プール行く前にどんなんかバレたら面白うないやん」

「でも……わたし、自分で選ぶ自信ないし……」

「なに言うてんの。わたしらがきっちりアンタに似合う水着選んだる」

わたしには、気のせいか、Uの目が邪悪に見えました。

「でも、U、どうしてあんなに怒ったの?」

「どうしてて、怒るに決まってるやん! 交換するやなんて、失礼やで」

それはそうですが、まだ納得がいきませんでした。

「来る途中、Uも同じこと言ってたでしょ?」

「あれはアンタに言うた冗談や。兄ぃに聞こえるトコでは言うてないやろ?
 本人のわたしやアンタの居るトコであんなこと言うのはアホ以下や。
 デリカシーがないちゅうねん」

「なるほど……」

売り場に着いて、わたしがやっぱり迷って選べずにいると、
UとVが水着を何枚か抱えてきました。

試着室の前に来て、わたしの分だという水着を差し出されました。
Vから渡された水着に、わたしは目が点になりました。

「V……これ、派手すぎない?」

(続く)

●連載162●
2001年12月2日 20時30分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」820-824)

南国の大きな花がプリントされた、トロピカル調のビキニでした。

「えー、そんなことないよー、夏だからだいじょうぶだよー」

ぜんぜん理由になってない、と思いました。
わたしはビキニを返して、Uの持ってきた白いワンピースを手に取りました。

「白い水着って、透けるんじゃない?」

「どうせ○○は泳がへんのやから、かめへんやん」

「それもそうね」

試着して、襟が首のところまである、その白い水着を買いました。

休憩所で待っているお兄ちゃんたちは、お互いに今日が初対面です。
YさんとXさんはあまり話が合いそうにないし、
まだぎこちない雰囲気が残っているだろう、と思いましたが、
休憩所に戻ってみると、和やかに談笑していました。

お兄ちゃんに水着の包みを差し出して、鞄に入れてもらいました。

「なんだこれ?」

「ないしょ……。お兄ちゃんはなんのお話してたの?」

「ん、ああ、Yさんがカメラに詳しいっていうから、
 いろいろ教えてもらってたんだ。
 Xさんは音楽に詳しいから、楽器のこと聞いたりな。
 俺もギターだけじゃなくて、フルートでも吹いてみようかな」

「わたしも聴いてみたい」

お兄ちゃんならきっと、すぐにフルートもマスターするだろう、と思いました。

「アンタ、なに2人の世界作っとるんや。
 Vに感化されてるんと違うか?」

Uがそばに居るのを忘れていました……。

その後は、6人であてもなくそぞろ歩きました。
ショーウィンドウに、去年の夏にわたしが着ていたのとよく似た、
白いワンピースが飾ってありました。

「○○、あれ、よく似てるな」

お兄ちゃんも気が付いたようです。

「もうあれは着ないのか?」

「背が伸びたから……」

「そうか……じゃあ、F兄ちゃんのお土産代わりはあれにしよう」

試着してみると、お兄ちゃんが「うん、似合う」と言いました。

「髪の長さが違う」

「また、元気になったら伸ばせばいいさ」

「うん」

そのワンピースを買って、歩いていると、足が痛くなってきました。
こんなに長い時間歩いたのは、久しぶりでしたから。

見るものがなくなって、デパートの中の喫茶店でパフェを食べました。
他の席は女の子ばかりで、集まる視線に男性陣は居心地が悪そうでした。
わたしは、お兄ちゃんが一番格好良い、と内心思いました。

パフェを一番先に平らげたUが、提案しました。

「どないする? これからカラオケでも行こか」

「いいねー、いこーいこー」

「俺の行きつけんとこにしようか?」

VとYさんも乗り気でした。

「アニメの歌は禁止やで」

「え〜?」

Uに冷たく釘を刺されて、Yさんがしょげました。

「○○、どうする?」

お兄ちゃんが囁いてきました。

「うん……」

わたしが目をしょぼしょぼさせているのに気づいたのか、
お兄ちゃんがみんなに言いました。

「ちょっと歩き疲れたから、今日はもう失礼します」

「えー帰っちゃうのー?」

「V、無理言うたらアカンで。残念やけど、ここで一回解散にしよ」

Yさんが記念写真を撮って、解散しました。
といっても、その場を去ったのは、わたしとお兄ちゃんだけでした。
たぶん、残った4人でカラオケに行ったのだと思います。

「お兄ちゃん」

「なんだ?」

「ごめんなさい。疲れやすくて……。まだこんな時間なのに」

「気にすんな。今日は賑やかだったからな、俺もちょっと疲れた」

「お兄ちゃんも、UやVみたいな、元気な子のほうがいい?」

「バカだな。そんなこと気にしてたのか。
 UちゃんもVちゃんも元気で面白いけど、お前が一番面白いよ」

家に帰って、まずお風呂に入りました。寝てしまいそうだったからです。
頭を洗いながら、こっくりこっくりしてきました。
風呂場の外から、お兄ちゃんの声がかかりました。

「○○ー、風呂場で寝るなよー! 風邪ひくぞー!」

「ふにゃ」

「寝てるのかー?」

返事をしているつもりが、舌が回っていなかったようです。
お兄ちゃんが入ってきて、頭を流して、バスタオルで拭いてくれました。

翌朝気が付くと、ちゃんと自分のベッドに寝間着を着て寝ていました。
あれ?としばらく考えて、ゆうべ風呂場で寝てしまったことを思い出しました。

1階に降りていくと、もう朝食の支度ができていました。

「おはよう、○○。起こしに行こうかと思ってたんだ」

「おはよう、お兄ちゃん……」

「ん?」

「……ゆうべ、わたしの裸、見た?」

(続き)

●連載163●
2001年12月3日 19時17分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」854-858)

「え……?」

「お風呂でわたし、寝ちゃったでしょ?
 でも起きたら、ちゃんと服着てた。着替えさせてくれたの?」

「ん、まぁ、風邪引くといけないから……」

「全部……見えた?」

わたしはお兄ちゃんの目を、じっと見据えました。
朝だというのに、空気が緊張感で張り詰めました。
お兄ちゃんは言葉を探しているのか、口ごもった後、つぶやきました。

「見えた」

「そう」

わたしは黙って席について、うつむきました。

「……○○、どうしたんだ? おかしいぞ。
 バスタオルかぶせて拭いたから、じっくりと見たわけじゃない。
 服着せるときは見えたけど……仕方なかったんだ。
 そんなに……嫌だったのか?」

お兄ちゃんの声からは、不安が滲み出ていました。
わたしはお兄ちゃんが誤解していると気づいて、顔を上げました。

喉の奥がねばついたようになって、声がなかなか出てきてくれません。

「違う……嫌じゃ、ない」

「だったら、どうして?」

「わたし、子供っぽいでしょ?
 中学生にもなって、お風呂で寝てしまって、服まで着せてもらって……。
 赤ちゃんみたいね」

眠っているあいだに、まだ毛も生えていないあそこをタオルで拭かれて、
ショーツを穿かされたのかと思うと、恥ずかしさで顔が燃えるようでした。

「うーん……まぁ、冷めないうちにご飯食べよう」

無言のままご飯を口に運びながら、お兄ちゃんは何か考えているようでした。
食後のお茶を入れて勧めると、お兄ちゃんが口を開きました。

「○○……お前は大人だよ」

「え?」

「ホントに子供だったら、そんなこと気にしないだろ?
 俺は……お前がもっと子供でも良いと思うぞ。
 小学校の頃から、お前は子供らしいところがなかった。
 もっとわがまま言って、甘えてくれたほうが嬉しいよ」

「でも……お兄ちゃんは、中学生の時から大人っぽかった」

お兄ちゃんは温かい微笑みを見せて、言いました。

「俺は長男だからな……仕方がないさ。
 ○○……こっちにおいで」

お兄ちゃんはわたしを膝に乗せて、頭を撫でました。

「嫌か?」

「……嫌じゃない。すごく気持ち良い」

お兄ちゃんに背中を抱かれて、柑橘系の整髪料のにおいを嗅ぐと、
背筋がじーんと痺れるようでした。

「友達に、兄妹で仲が良すぎて変だ、とか言われてないか?」

わたしは首を横に振りました。

「UもVも、そんなこと言わない。
 Uはお兄さんをいじめてるけど、ホントは好きみたい。
 Vは兄弟がいないから、羨ましいって」

「まぁ……言われたって良いさ。2人きりの兄妹なんだから」

「お兄ちゃん、言われてるの?」

「ん、今は大丈夫だ。昔は言われたけどな。
 小学校高学年ぐらいになると、妹と遊ぶのが格好悪いと思う奴が多いんだ。
 妹いじめて泣かしてる奴のほうが格好悪いのにな。ガキだったんだ」

「お兄ちゃん……わたしのせいで、いじめられてた?」

「ははは、詰まらない因縁つけてきた奴もいたけどな。
 じっくり話し合って納得してもらったよ」

お兄ちゃんの語彙のなかで、「じっくり話し合う」というのは、
どうも一般的な意味とかけ離れているように思えました。
でも、今は、深く問いただして雰囲気を壊したくありませんでした。

「うりゃ」

お兄ちゃんが、わたしの顎の裏をくすぐってきました。
わたしは身をくねらせましたが、お兄ちゃんは放してくれませんでした。

「今から、『にゃあ』以外のコト言うの禁止な」

お兄ちゃんが手を緩めたので、わたしは膝の上から逃れました。
でも、お兄ちゃんが追いかけてきて、さんざんにくすぐられました。

わたしがヘトヘトになって、涙を流すと、お兄ちゃんは謝りました。

「ごめん……やりすぎたか」

「……お兄ちゃんの、ばか」

でも本当は、たまには子供になるのも良いか、と思いました。

そうして、プールに行く日がやってきました。
条件にあったプールは、Yさんが見付けておいてくれました。
電車でないと行けない距離だったので、駅前で待ち合わせをしました。

わたしは、この前買った水着をリュックに詰めました。
お兄ちゃんに記念写真を撮りたいと言われていましたが、
まだ水着姿も白ワンピースも、お兄ちゃんには見せていませんでした。

白ワンピースに着替えて、鏡に映してみると、去年の夏とよく似ていました。
お兄ちゃんの髪とは逆に、わたしの髪が短くなったのだけが違いでした。

麦わら帽子を抱えて下りていくと、お兄ちゃんの支度も済んでいました。
玄関で、お兄ちゃんが言葉を漏らしました。

「変わってないと思ってたけど、やっぱり去年より大人っぽいな」

(続き)

●連載164●
2001年12月3日 21時24分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」860-864)

「そう? どこが?」

お兄ちゃんは首をかしげました。

「どこがってことはないけど、背が伸びたせいかな……?」

お兄ちゃんがじろじろ見るので、わたしはリュックを背負い、
麦わら帽子を目深にかぶりました。

「遅れないように、早めに行きましょ」

待ち合わせ場所に並んで立っていると、UとYさんがやってきました。
Yさんは大袈裟に驚いて、さっそくカメラを取り出しました。

「いや〜可愛いねぇ〜」

わたしは危険信号を察知しました。Uが目を細めたのです。
私服だとパンツルックが多いUには珍しい、キュロットスカート姿でした。

「U、それ新しいスカート?」

「あ、わかるか? そらふつうはわかるわな〜。アホは別やけど」

「なんやU、俺のこと言うてんのか?」

「自覚あったんかいな」

「アホか、わかっててもそんなんいちいち言うか、恥ずかし」

「駅前でデレデレしてるほうがもっと恥ずかしわ」

「誰がデレデレしてんねん」

「……U、お兄さん、人が見てます……」

その時、「ごめんなさぁああああああい!」と声をあげながら、
Vが駆けてきました。少し遅れて、Xさんもやってきました。

「服が決まらなくて〜、遅れちゃったー」

「まだ、約束の時間になってないよ?」

「あ、そうなのー? 走って損したー。汗かいちゃったよー」

「V……あなた、そんな服持ってたの?」

「似合うでしょー?」

ポーズを決めるVの出で立ちは、トロピカル調の大きな花柄の、
派手なワンピースでした。

「似合う……けど」

ちらりとお兄ちゃんに視線を向けると、
「うん、よく似合ってる。可愛い」とお兄ちゃんが言いました。

「やっぱりー? やだー」

喜ぶVの笑顔は輝くようでした。UもYさんも毒気を抜かれたのか、
口喧嘩はうやむやになりました。

「揃ったし、出発しましょ」

ひとりで歩きだすと、お兄ちゃんが追いついてきて、耳許で囁きました。

「お前が一番可愛い」

「……うそ」

そう返事はしたものの、自分の顔がへなへなに崩れるのがわかりました。
我ながら現金なものだと思いました。

電車に乗り込むと、Xさんの足元の大きな鞄が目につきました。
Xさんにカメラの趣味はないはずだし、プールに楽器を持ち込むわけはないし、
いったい何が入っているのだろう、と不思議でした。

「Xさん」

「なに? ○○ちゃん」

「その鞄、何が入ってるんですか?」

返事をしたのはVでした。

「ひーみーつだよー」

Vは顔じゅうを口にして、ドラえもんのような笑みを浮かべました。
わたしは内心、これさえなければVは非の打ち所のない美少女なのに、
と嘆息しました。

プールに着いて、わたしはその規模の大きさに思わず辺りを見回しました。
プールというよりは、レジャーランドでした。

屋外&屋内プール、温泉、ゲームセンターにレストランまで完備です。
入場料金もそれなりでした。

男女別に分かれた脱衣場を出て、シャワーを迂回して中に入ると、
お兄ちゃんたちが待っていました。

シンプルな競泳用水着を穿いて立っているお兄ちゃんを見て、
UもVも思わずため息を漏らしました。

お兄ちゃんは、顔つきが優しくて撫で肩なので細身に見えますが、
脱ぐと美術室の胸像のような見事な筋骨があらわになります。

わたしは密かに誇らしさで鼻が膨らみそうでした。

「○○、冷えるといけないから、これ着てろ」

お兄ちゃんが寄ってきて、ヨットパーカーを肩に掛けてくれました。
わたしにはだぶだぶでした。

カシャリ、と音がしたので目を向けると、Yさんがカメラを構えていました。
意外なことに、Yさんもがっちりした体格をしていました。

「カメラ、濡れても大丈夫なんですか?」

売店で売っている使い捨てではなく、妙に大きなカメラでした。

「これは防水ハウジングに入れてるから大丈夫なんだ。
 水中でも写せるよ。隙間にはパッキンが入っていて……」

「スケベな写真撮るのに最適やな」

勢い込んで説明しようとした出鼻を挫かれて、Yさんが渋い顔をしました。

「もっと他に言うことはないんかいな?」

Uが胸を反らして、新調したばかりのビキニの水着を強調しました。
トロピカル調のVの水着よりは大人しめでしたが、結構大胆な露出度でした。

(続き)

●連載165●
2001年12月4日 19時24分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」881-885)

Yさんは顔を突き出すようにしてUの胸をまじまじと鑑賞し、
ため息混じりに口にしました。

「……お前もずいぶん育ったなぁ。何センチあるんや?」

傍目にも、鼻の下が伸びていました。

「……!」

Uの顔が見る見る真っ赤になりました。

「兄ぃのクソボケ!」

抜く手も見せぬ早技で、Yさんの頬がパチーンと鳴りました。
Uはポカンとした表情のYさんを残して、全力で走って行きました。

なぜ頬を張られたのかわからない、といった顔で佇むYさんに、
お兄ちゃんが近づいて耳打ちしました。

「今のはひどいです。追いかけてください」

「え? しかし……なんで?」

「素直に水着を思いっきり褒めるんです。絶対喜びます」

「そんな……今さら言うても嘘臭いし」

「さっきは照れていた、って言うんです。
 彼女きっと、どこかで泣いてますよ」

Yさんのデリカシーの欠如に、わたしもこの時は腹を立てていました。

「あいつが泣くやなんて、まさか……」

わたしが睨むと、Yさんは動揺した様子で、「わ、わかった」と言って、
Uを探しに行きました。

残った4人は、顔を見合わせました。

「Uちゃんどうしたのかなー? お兄さんと喧嘩ばっかりしてるねー?」

いつも明るいVの顔も曇っていました。

「ここで待ってても仕方がない。僕らだけで遊ぼう」

Xさんに声を掛けられて、Vの表情が一転してほころびました。

「じゃあおにーちゃん、あれ膨らましてー」

Xさんの足元に、奇妙な緑色をしたビニールのかたまりがありました。
Xさんが小さなガスボンベのようなものを取り付けて何かすると、
シューという音を立てて見る見る膨らんでいきました。

「それ、なんですか?」

「まぁ……浮き袋みたいなものかな?」

ガスで膨らんだその浮き袋は、緑色の怪獣の形になりました。
背中に2〜3人は乗れそうな巨大さで、浮き袋というよりはボートでした。
お兄ちゃんを見ると、呆気にとられた顔をしていました。

「V、それ、どこで売ってたの?」

「知らないけどー、アメリカ製だってー。すっごいでしょー?」

「確かにすごいね……買ってくれたのは、おじいちゃん?」

「○○ちゃん、どうしてわかったのー?」

「……いくらなんでも、プールでそれはまずいんじゃない?」

「えー? 子供用プールなら浮き輪はOKなんだよー?」

第一に、それは浮き輪と言えるような代物ではなくて、
第二に、中学生は子供用プールでは泳がない……と突っ込むべきでしたが、
Vの嬉しそうな顔を見ていると、気力が萎えてきました。

わたしが無言で立ち去ると、お兄ちゃんが付いてきました。

「○○、ほっといていいのか、あれ?」

「言っても無駄。わたしたちは、他人のフリしましょ」

「……お前、結構厳しいんだな」

「お兄ちゃんは、やっぱり優しいね。
 さっき、Yさんに言おうとしたこと先に言われて、びっくりした」

「んー、なんとなくな、Uちゃんがすごく淋しそうな顔してたから」

お兄ちゃんが自分以外の女の子にも優しいとわかって、
誇らしいような、悔しいような、複雑な心持ちでした。

お兄ちゃんは念入りなストレッチを始めました。
わたしもそれに付き合いながら、何気なく尋ねてみました。

「UやVを見て、どう思う?」

「んー、2人ともタイプは違うけど、元気良いな。圧倒されるよ」

「わたしもあれぐらい、元気だったら良かった?」

「……お前はお前だろ。いきなりキャピキャピされたら腰抜かすよ。
 お前は……その……なんだ、落ち着いてて、悪くない、と思うよ」

不自然な間に、わたしは首をかしげました。

「どうしたの?」

「なんだか言ってて照れるな。こんなトコだと、ナンパしてるみたいで」

「……お兄ちゃん、プールではいつもナンパしてるの?」

「そんなことないって。まぁ、その……男ばっかりでプールに来ると、
 遊ばないかと声かけられたりはするけどな……おい、どこ行くんだ?」

「喉乾いたから、ジュース買ってくる」

「俺が買ってくるよ」

「いい」

本当は飲みたくありませんでしたけど、火照った顔を冷やしたくて、
ゆっくり売店に歩いて行って、両手にジュースを持って戻りました。

ジュースをこぼさないように手元ばかり見ていたので、
近くに来るまで、お兄ちゃんが誰かと一緒なのに気づきませんでした。

「あ、○○」

名前を呼ばれて顔を上げると、お兄ちゃんがやってきて、
わたしの肩を抱き寄せました。

「これ、俺の彼女。いっしょに来てたんだ。だからゴメンね」

知らない女の人が、むっとした顔で去って行きました。

「今の、だれ?」

「知らない子。しつこいんで参ったよ。お前が来てくれて助かった」

お兄ちゃんのモテ方は、わたしの想像以上でした。

(続き)

●連載166●
2001年12月5日 14時33分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」905-909)

「やっぱり、お兄ちゃんって……モテるんだ。
 わたしが居ると、邪魔じゃない?」

わたしは「彼女」として紹介された動揺を隠そうと、
わざと素っ気ない態度をとりました。

「そんなわけないだろ? せっかくお前と遊びに来たのに、
 知らない子に邪魔されたくないよ」

「ふぅん。さっきの人にも、愛想良くしてたのに?」

「虫みたいに追い払うわけにもいかないだろ?」

そう言って、お兄ちゃんは邪気のない笑みを浮かべました。
お兄ちゃんは、その笑顔が女の子を惹き付ける事を自覚していないようです。
わたしは胸がズキンとして、ハァ、と小さくため息をつきました。

その後、デッキチェアに背中を預けて2人でジュースを飲んでいると、
UとYさんがわたしたちを見つけてやってきました。

YさんがどうやってUの怒りをなだめたのか謎でしたけど、
Uは見るからに機嫌が好さそうです。

「○○、せっかくプールに来たんや。足でも水に浸けて涼んだらどないや?」

「そうね」

「じゃあ、○○、俺は泳ぐから、タイム計ってくれるか」

お兄ちゃんは腕からダイバーズウォッチを外して、
わたしにタイムの計り方を教えてくれました。

Uの強制的な勧めで、Yさんもお兄ちゃんと並んで泳ぐことになりました。
Uは自信ありげでした。Yさんは泳ぐのが速いそうです。

Uの「負けたら承知せえへんでー」という声援に送られて、
勝負?が始まりました。

最初の一往復、お兄ちゃんはゆったりしたペースに見えました。
Yさんは力強いフォームで水をかいています。

戻ってきたのは、Yさんのほうが先でした。
わたしは予想外の結果に、ボタンを押し損なうところでした。
まさかお兄ちゃんが負けるなんて、想像もしていなかったのです。

さらに何往復かするうちに、Yさんがはっきり遅れだしました。
お兄ちゃんのペースは変わりません。

Yさんがギブアップしてプールから上がった後も、
お兄ちゃんは変わらないペースで泳ぎ続けました。

「ぷは〜、バテた。ナマったなぁ。最近運動してへんからなぁ」

「だらしないでぇ。ふだんからもっと鍛えな」

Yさんに文句を言いながらも、Uは嬉しそうでした。
お兄ちゃんがなかなか上がってこないので、UとYさんは屋外プールに、
ウオータースライダーに乗りに行きました。

少し息を荒くして、お兄ちゃんがやっとプールから上がってきました。

「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」

「ああ、タイムはどうだった?」

腕時計を返すと、数字を読んで、お兄ちゃんはうなずきました。

「お兄ちゃん」

「ん?」

「最初の往復で、わざと負けたの?」

「あ? 別に何か懸けてたわけじゃないだろ?
 飛ばすとあとできつくなるから、ペースを守っただけだ。
 俺が負けると、悔しいか?」

「うん。お兄ちゃんは絶対一番だと思うから」

「絶対……なんてコトないよ。
 負けることもあるし、失敗することもある。人間だからな。
 生きてるかぎり、何回でもやり直せばいいんだ。
 だから、健康が一番。いつか、いっしょに泳ごうな」

「うん。来年になったら、体育できるようになる……カナヅチだけど」

「教えてやるよ。1年なんてすぐだ」

わたしは、やっぱりお兄ちゃんはわたしの一番だ、と思いました。

お兄ちゃんが背泳ぎや平泳ぎでゆったり泳ぐのを、
足を水に浸けてのんびり眺めていると、VとXさんがやってきました。

Vは珍しく、Xさんの後ろでしゅんとしています。

「どうしたの?」

見ると、怪獣の浮き袋がありません。

「いや、監視員に見つかって、怒られちゃったんだ。
 すぐに仕舞わないと退場させるってさ」

「おにーちゃんが代わりに怒られてくれたのー。ごめんなさいー」

Vは半べそをかいていました。

「ボクが止めるべきだったのに、止められなかったんだから、
 仕方ないよ」

Xさんは苦笑しました。XさんはVに甘すぎたんじゃないか、と思いました。

「V。お兄さんの言うこと聞かなくちゃ」

「うん。わかったー」

「ところで、Uちゃんは?」

「Yさんと仲直りして、ウオータースライダーに乗りに行きました」

「僕らも行こうか?」

「外は日射しがきついから、わたしはダメです。
 2人で行ってきてください」

「そう? 少しぐらいならと思ったんだけど、残念だね。
 じゃ、Vちゃん、行こうか」

お兄ちゃんがプールから上がってきたので、Vの怪獣のことを話すと、
「やっぱりなぁ」と笑いました。

「そろそろ、温泉入りにいくか?」

「うん」

(続く)

●連載167●
2001年12月5日 19時59分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part8」11-15)

温泉は、別棟に集められていました。水着のまま入ることができます。
口を密封できる四角いビニール袋に、財布やヨットパーカーを入れて、
温泉棟に持ち込みました。

わたしはそれまで本物の温泉に入ったことがなかったせいか、
お兄ちゃんと肩を並べて中に入ってみて、目を丸くしました。
さまざまな種類のコーナーがぐるりと並んでいます。

お兄ちゃんは汗を流したいと言って、まずサウナ風呂の小部屋に入りました。
わたしも続いて入ってみると、顔にちくちくする熱を感じました。

「○○はふつうの温泉のほうが良いだろ」

わたしはサウナ風呂から出て、順番に試してみることにしました。
水風呂は爪先だけ入れて、冷たかったのでパスしました。
電気風呂は本当にビリビリしたので、あわてて飛び出ました。

透明な温泉や濁った温泉に入りましたが、特に気持ちの良かったのは、
滝のようにお湯が落ちてくる打たせ湯でした。
お湯の流れが肩に当たるようにすると、肩を揉まれているようでした。

だいぶ時間がたって、お兄ちゃんがサウナ風呂から出てきました。
お兄ちゃんはお湯をかぶっていきなり水風呂に入ったので、
ショックで心臓が止まらないかと、わたしのほうがドキンとしました。

お兄ちゃんが水風呂を出て、わたしのほうに歩いてきました。

「○○、顔赤いぞ。のぼせてないか?」

しゃがんでいたわたしが立ち上がると、目の前の光景がゆらゆらして、
思わず壁に手を突きました。

「おい!」

お兄ちゃんがあわてた声を出しました。

「だいじょうぶ。ちょっとくらくらするだけ」

「いいからそのまま動くな」

お兄ちゃんはいきなり、ヨットパーカーをわたしにかぶせました。

「服が濡れちゃうよ?」

返事はなく、太股を両方とも片手で抱えられて、担ぎ上げられました。

「お兄ちゃん?」

お兄ちゃんはわたしを担いだまま、小走りで温泉棟を出ていきました。
わたしは頭がぐるぐる回るようで、口が利けなくなりました。

プール脇の寝椅子に寝かされて、頬をぺちぺち叩かれました。

「○○、だいじょうぶか?」

「……気持ち悪い」

湯当たりしたせいか、胸がむかむかしました。
そのまま目をつぶっていると、頭に冷たいものが当たりました。

「かき氷だ。食べられるなら食べたほうがいい」

しばらく頭と体を冷ましていると、気分が良くなってきました。
わたしは身を起こして、溶けかけた甘いかき氷を飲みました。

「よくなったか?」

「うん……服、乾いたかな」

「さっきはゴメンな。仕方なかったんだ」

「なにが……?」

「あのな……水着、透けてたんだ」

「え?」

顔を上げて見ると、お兄ちゃんは照れくさそうに目を泳がせました。

「そういう水着のときは、下になにか重ねないとまずいんじゃないか?」

プールの水に入らなくても、温泉のお湯に浸かれば透けるのは当然でした。

「みんなに見られた……かな?」

知らない人にまで、透けているのを見られたかと思うと、
顔がカアッと熱くなりました。

「だいじょうぶだと思うけどな……」

それからわたしは、ずっとヨットパーカーを着ていました。
Uたち4人が帰ってきて、6人でオープンカフェに行ったときも、
どうにも気恥ずかしくて、わたしとお兄ちゃんは言葉少なでした。

Uがひそひそ声で囁きかけてきました。

「○○、さっきからおかしいんとちゃう?」

「え?」

「アンタも兄ちゃんも、ずっと黙ってるし……なんかあったんか?」

「べ、別に……ちょっと疲れた、かな?」

「そうか……? このあと温泉にでも行ってのんびりしよか」

「あ、温泉は、さっき入ってきた。もう十分」

やましいことはないのに、舌がもつれてしどろもどろになりました。

その後、温泉に行って戻ってきても、UやVはまだまだ元気でしたが、
Yさんが「疲れた……ぼちぼち帰ろう」と提案しました。

Uは「軟弱モン……」とぶつぶつこぼしながらも、
わたしを気遣ったのか、Yさんに賛成しました。

帰りの電車で席に座ってみると、実際にわたしは疲れていました。
家に帰ってから食事に時間をかける元気はなかったので、
みんなといっしょにファミレスに寄って夕食にしました。

お兄ちゃんは1人で3人前のメニューを注文して、みんなを驚かせました。
わたしはその中から、塩分の少ないメニューを0.5人前分けてもらいました。

家に着いた頃には、わたしの目蓋はくっつきかけていました。
お風呂に入るとまた寝てしまいそうだったので、軽くシャワーを浴びました。

風呂場を出てすぐにパジャマに着替え、なんとか自分の部屋に戻ると、
お兄ちゃんがドライヤーを持ってやってきました。

「髪の毛が濡れたままだとくしゃくしゃになるぞ。乾かしてやる」

(続く)

●連載168●
2001年12月6日 19時25分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part8」25-29)

わたしはベッドから降りましたが、意識が途切れかけていました。
お兄ちゃんはベッドに腰掛けて、わたしを開いた膝のあいだに座らせました。

「眠くなったらもたれて寝て良いからな」

そう言って、お兄ちゃんはドライヤーのスイッチを入れました。
ドライヤーの生暖かい風で髪をなぶられ、お兄ちゃんの指を頭に感じると、
ふっと気が遠くなりそうでした。

お兄ちゃんのがっしりした胸に背中を預けると、体じゅうの力が抜けて、
ぐにゃぐにゃの生き物になったようでした。

「なんか良い匂いするな」

お兄ちゃんの鼻が、自分の首筋に埋められるのがわかりました。
わたしは、今寝たら勿体ない!……と思って必死に睡魔と闘いましたが、
いつの間にか眠りの中に引きずり込まれていきました。

ふと目が覚めると、まだ真っ暗でした。夜明け前だったのです。
上体を起こして見回しても、当然のようにお兄ちゃんの姿はありません。

わたしは朝に弱いので、早起きするお兄ちゃんの寝顔を見た覚えが
ほとんどありませんでした。チャンスだ、と思いました。

そっと部屋を抜け出して、お兄ちゃんの部屋の前に立ちました。
ノブをゆっくり回してみると、鍵はかかっていません。
音を立てないようにドアを開けて、中に滑り込みました。

お兄ちゃんは寝るとき、真っ暗にするのが嫌いらしく、
小さな赤いライトが点けたままでした。
薄暗い光に照らされたお兄ちゃんの寝顔は、死人のように静かでした。

足音がしないように抜き足差し足でベッドに近づきました。
お兄ちゃんは目を覚ましません。
間近に見ると、少し口を開けて、呼吸をしているのがわかりました。

暑かったのか、タオルケットはどこかに行っていました。
肩の見えるTシャツと、ショートパンツしか身に着けていません。

首もとすれすれに鼻を近づけると、かすかに汗くさいような、
複雑なお兄ちゃんのにおいがしました。

物言わぬお兄ちゃんの顔を見ていると、愛しさで胸が一杯になりました。
熱いかたまりのようなものが、喉元まで上がってきて、
キスしたくてたまらなくなりました。

でも、意識のないお兄ちゃんの唇を奪うのは、卑怯だと思いました。
わたしは声が漏れないように、大きく深呼吸して、回れ右しました。

部屋に戻ったわたしは、緊張が抜けてベッドの上でぐったりしました。
タオルケットをかぶって丸くなり、固く目をつぶりました。
頭を空っぽにしてもう一度眠りにつくのには、ずいぶん時間がかかりました。

再び目覚めると、明るくなっていました。
わたしはしばらくぼんやりと、昨日のことや、買い物に行った日に
思いを巡らせました。

これといったきっかけもなく、絶望感が胸にあふれました。
わたしはいつだって、お兄ちゃんの足手まといだ、と思いました。
目の奥から、熱いモノがこみ上げてきました。
わたしは流れる涙を拭いもせず、ただ声もなく泣きました。

コンコン、と控えめなノックの音がしました。

「○○、もう起きてるか?」

わたしはハッとして、返事をしました。

「あ、すぐ行く……」

でも、出た声は鼻声になっていました。

「○○、風邪引いてるのか? 入るぞ」

わたしはタオルケットをかぶって、丸くなりました。
お兄ちゃんの手が、背中に置かれました。

「どうした? 熱あるのか? 顔見せてみろ」

わたしは抵抗しましたが、タオルケットを剥がれてしまいました。
肩を掴まれて、上を向かされました。
顔を背けても、泣きはらした目は隠せませんでした。

「お前……泣いてたのか?」

驚いた声でした。お兄ちゃんにも、訳がわからなかったのでしょう。

「いつも、泣いてるのか?」

大きな手が、頭に乗せられました。
わたしはその手を取って、払いのけました。

「わたし……もう子供じゃない」

「何を言ってるんだ?」

「昨日もその前も、お兄ちゃんに手間をかけてばっかり……。
 わたし、負担でしょう?
 泣いたのは……今日が初めて。情けなくて」

お兄ちゃんは、ベッドに腰を下ろして、しばらく黙っていました。

「○○は、そんなこと気にしてたのか……。
 負担なんてことない」

「でも……」

「お前は、昔からずっと大人だったよ。
 恥ずかしいから今まで黙ってたけど、昔話をしよう」

「……?」

「お前が俺を助けてくれた話だ」

(続く)

●連載169●
2001年12月7日 17時6分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part8」39-43)

「小さいとき俺が弱虫だった話は、前にしたことあるよな?」

「うん……」

まだ、そんなお兄ちゃんは想像できませんでした。
お兄ちゃんはくすっと笑って、話を続けました。

「俺は女の子にも泣かされるぐらいだったんだ。
 お前が元気だったのと反対に、俺はひょろひょろだったしな。
 それにお前は小学校に上がる前から勉強ができた。
 テレビはNHK教育ばっかり見てたんだぞ、お前は」

その頃の記憶は、わたしには残っていません。

「俺が学校の宿題をしていると、お前が来て教えてくれるんだ……。
 俺には読めない漢字が読めたし、算数もできた。
 同じ兄妹なのになんでこんなに出来が違うんだろうって、
 ずいぶん情けなかったよ……」

「お兄ちゃん……?」

「そんなすまなそうな声出すな。
 お前は別に悪くないんだ。俺がひがんでただけだ。
 それなのに、お前は小学校に上がる前にひどい熱を出して、
 それから体が弱くなっちまった。
 俺はなぁ……お前を守れるようにならないといけない、って思った。
 サッカー始めて毎日走るようにしてな。
 泣かなくなった。
 喧嘩もするようになった。
 勉強も、頑張ったよ。
 お前は俺が賢いって思ってたけど、こっそり勉強してたんだぞ。
 お前にダメな兄貴だと思われたくなくてな」

お兄ちゃんは、大きくため息をつきました。
わたしにとって、お兄ちゃんはこれまでずっと、完璧でした。
勉強もスポーツもできて、手先が器用で家事も得意だったからです。
まったく違うお兄ちゃん像を知らされて、わたしは息を呑むだけでした。

「妹と遊ぶのを笑う奴は、黙らせてやった。
 妹を泣かすより、笑わせたほうが格好良いじゃないか。
 俺が大人っぽくなったとしたら、それはお前のおかげなんだ。
 お前が居なかったら……俺はまだ弱虫で馬鹿なガキだったと思うよ。
 だから、負担だなんてそんな悲しいコト言うな。
 お前はずっと、俺より大人だったよ。
 大人だって、たまには甘えたくなることがあるんだ。
 お前もたまには、兄ちゃんにわがまま言って困らせてくれ。
 お前が泣いてるより笑ってるほうが嬉しいんだ。
 ……な?」

お兄ちゃんはわたしを抱き寄せて、髪を撫でました。
顔をお兄ちゃんの肩に埋めると、また涙が湧いてきました。

わたしは声を殺して泣きながら思いました。やっぱり自分はまだ子供だと。
でも、お兄ちゃんになら、そんな恥ずかしい姿を見られても良い、と。

しばらく抱きついていると、お兄ちゃんがわたしの顔を上げさせて、
目蓋を舐めました。

わたしが目をぱちくりさせると、お兄ちゃんは笑いだしました。

「ちょっとしょっぱいな。涙は止まったか?
 顔洗ってこいよ。そのあいだにみそ汁温めなおしとく」

洗面所で顔を洗ってダイニングに行くと、お兄ちゃんが待っていました。
わたしがご飯をよそい、お茶を淹れて、朝ご飯が始まりました。

言葉を交わさなくても、今までで一番お兄ちゃんに近づいたような、
そんな気がしました。

親密な時間は、一瞬一瞬が夢のようで、でもするすると過ぎていきます。
やがて、登校日が来ました。

わたしとお兄ちゃんは、いっしょに玄関を出ました。
お兄ちゃんはこれから友達に会うと言って、自転車に乗っています。

「後ろに乗れよ」

自転車での通学は校則違反でした。おまけに、2人乗りです。

「でも……」

「途中までならバレないって」

わたしは荷台に横座りして、お兄ちゃんの腰に掴まりました。

学校の近くまで来て、自転車から降りました。
お兄ちゃんは手を振りながら遠ざかっていきました。

教室に入ると、まだUやVは来ていませんでした。
早く来て談笑しているクラスメイトたちの中に、b君の姿が見えました。

わたしはこの時まで、b君のことをすっかり忘れていました。
じっと顔を見ていると、b君がわたしの視線に気づきました。

一瞬だけ目が合って、b君は素早く目を逸らしました。
まるでわたしが存在しなくなったように。

帰り際にわたしのそばを通る時、b君はわたしを見もしませんでした。
わたしは、お兄ちゃんとb君の「話し合い」がどんなものだったのか、
改めて疑念を抱きました。

「○○、bとはホンマに手が切れたみたいやな。
 今日は帰りどっか寄っていこか?」

「ごめんU……今日は早く帰る」

「つれないなぁ。兄ちゃんが帰ってきてからアンタ、付き合い悪いで」

(続く)

●連載170●
2001年12月8日 19時38分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part8」103-107)

わたしはUに答えず、そのまま学校を後にしました。
晴れ渡った夏空が、黒い雲で曇りはじめたような気分でした。

お兄ちゃんがb君を殴ったんじゃないか、と思うと胸が重くなりました。
想像の中で、嫌な笑みを浮かべながら暴力を振るうお兄ちゃんは、
悪夢そのものでした。

家に帰っても、お兄ちゃんは居ませんでした。
朝、友達と遊びに行く、と言っていたのですから、当たり前です。

わたしは落ち着かず、台所の流しや鍋をピカピカになるまで磨きました。
ずいぶん時間がかかりましたが、磨くものが何もなくなりました。

今度は廊下を雑巾がけして、玄関の鏡を磨きました。
一心不乱に玄関の扉を乾拭きしていると、鍵がガチャリと音を立てました。

ドアが開いて、三和土たたきの上でお兄ちゃんと対面しました。

「ただいま……お前、何やってんだ?」

「おかえりなさい……掃除」

お兄ちゃんは玄関を見回して、面食らったようでした。

「ここまでやると疲れるだろ?
 力仕事は俺がやるから、無理するんじゃない」

お兄ちゃんの帰宅が思ったより早かったので、わたしは棒立ちでした。

「うん……お兄ちゃん、もっと遅くなると思ってた」

「ん、遅くなるようだったら電話してるよ」

「お茶いれるね」

わたしは台所で、紅茶を淹れました。
お兄ちゃんは、夏場でも冷たい飲み物をめったに飲みません。

ダイニングで紅茶のカップを口に運びながら、お兄ちゃんが訊きました。

「学校でなんかあったのか?」

「……どうして?」

「なんか変だぞ。今日のお前」

「そう……? 掃除はいつもしてるけど」

「それじゃない。なんで俺の目を避けるんだ?」

やっぱり黙っているわけにはいかない、と思いました。

「……お兄ちゃん。今日、b君と会ってきた」

「なに? まだなんか言ってきたのか、あいつ?」

「違う……わたしと目も合わさなかった。
 わたしが近づいても、気が付かないフリして……。
 なんだかわたしを怖がってるみたい。
 お兄ちゃん……b君に何をしたの?」

「……何って、話し合っただけだ」

信じたいと思いましたが、b君の様子は普通ではありませんでした。

「お話をしただけで、あんなになるのはおかしいと思う……」

「殴ったり蹴ったりはしてない、絶対だ。
 その……本当のお前の気持ちを言ってやったら興奮しやがったから、
 話し合いができるように、掴まえてちょっと柔道の技で
 大人しくさせただけだって……」

「首絞めたりしてない?」

「本気で喉を絞めてたら、あいつ今ごろ生きてないよ。
 かえって気持ちよかったぐらいだと思うぞ」

お兄ちゃんは何がおかしいのか、くっくっと笑いました。
想像の中の怖ろしい笑いではなかったので、わたしはホッとしました。

「お前に付きまとったら痛い目に遭うぞ、とは言ったけどな。
 本気じゃないって。あいつはちょっと恐がりなんだろ」

「ホントに……?」

わたしはまだ半信半疑でしたが、想像とは違っていたようなので、
疑惑は薄れかけていました。

不意にお兄ちゃんが、わたしの顎の下をくすぐってきました。
猫ごっこのサインです。
猫ごっこが始まると、わたしは猫の鳴き声しか出せなくなります。

わたしはお兄ちゃんが話を誤魔化そうとしているような気がして、
「ふーー」と抗議の声をあげました。

「んー? 猫の声じゃ、何言ってんのかわからんなー」

わたしはにやにやするお兄ちゃんの肩に、ちょっと強めに歯を立てました。

お兄ちゃんが大袈裟に「イテテテ」と言ったので、
わたしは舌を出して、歯形につばをなすり込みました。

「そういうことする猫はお仕置きだな」

お兄ちゃんはわたしを引き剥がして、舌をベロンと出しました。
わたしは舌が短くて、数センチしか出せませんが、
お兄ちゃんの舌は長くて、自分の鼻を舐めることができます。

お兄ちゃんはわたしの顔を、鼻と言わず頬と言わず舐めだしました。
わたしは目をつぶって逃げようとしましたが、
顔を背けると耳の後ろや首筋を舐められて、「ひあ」と変な声が出ました。

腰が砕けてしまって、わたしが震えだすと、
お兄ちゃんは舐めるのを止めました。

「べとべとになっちゃったな。風呂に入れてやろう」

お兄ちゃんはわたしをひょいと担ぎ上げ、風呂場まで運んで行きました。

(続く)


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