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お兄ちゃんとの大切な想い出 連載151〜160

「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」に掲載した連載151〜160を抽出したものです。番外編もあります。(管理人:お兄ちゃん子)

141〜150
151152153154155
156157158159160
161〜170

●連載151●
2001年11月21日 19時48分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」431-435)

「それで、続きは?」

わたしは震える声でお兄ちゃんに尋ねました。

「お兄ちゃん……どうしたの?」

お兄ちゃんは、食いしばっていた歯をゆるめて笑顔を見せました。

「ん? なにが?」

わたしがb君からの手紙を見せると、
お兄ちゃんは1枚1枚ゆっくりと時間をかけて目を通しました。
読み終えた便箋を封筒に仕舞って、お兄ちゃんはため息をつきました。

「ふぅ……この調子だと、手紙も本人もまた来そうだな……。
 ○○、お前の気持ちはどうなんだ?
 正直なところ、b君をどう思ってる?
 なんとも思ってないのか?」

お兄ちゃんが真剣そのものの声で、聞いてきました。
わたしは心を落ち着けて、考えました。

「最初は……なんとも思ってなかった」

「今は?」

「今は……会うと、とてもどきどきする」

言いながら、b君の瞳を思い出して、わたしは震えだしました。

「見つめられていると、落ち着いていられなくなって……。
 足元がぐらぐらするような……」

お兄ちゃんが、わたしの顔を覗き込んできました。

「好きに、なりそうなのか?」

「……違う、と思う。目が真剣すぎて、怖い。
 気持ちが強すぎて、わたしには、受けとめきれない」

「そうか……」

お兄ちゃんはしばらく、黙って考え込んでいました。

「このまま、放っておくわけにはいかないな。
 b君はすっかりその気になってると思うぞ」

「うん……」

このまま家に籠もっていても、駄目でしょう。

「兄ちゃんがb君と話をしてやろう。
 b君の気持ちも、本人の口から確認したいし……」

「お兄ちゃんが会うの……?
 でも、わたしのことだから、わたしが言わないと……」

「ん、そりゃそうだけど、お前、b君の前でちゃんと話ができるのか?
 思い出しただけで震えてるようじゃ、無理なんじゃないか?」

「…………」

ひとりで解決できないのが情けなくて、わたしは唇を噛みました。

「困った時ぐらい兄ちゃんを頼れ。
 心配すんな、b君の話もちゃんと聞いてみるから。
 そうと決まったら善は急げだ」

お兄ちゃんはわたしをベッドに下ろし、立ち上がりました。

「クラスの連絡網はどこにある?」

「電話の所に貼ってあるけど、電話するの?」

「ああ、ちょっと待ってろ」

お兄ちゃんは部屋を出て、電話を掛けに行きました。
戻ってくると、わたしをベッドに寝かしつけました。

「少しはあったまってきたみたいだな。体冷やしたら駄目なんだろ?
 今日は晩飯まで寝てろ。帰ってきたら久しぶりにご飯作ってやるから」

お兄ちゃんは笑顔で手を振って、部屋を出ていきました。
でも、わたしは胸騒ぎがしました。
出ていくときのお兄ちゃんは、目だけが笑っていなかったからです。

わたしは起き出して寝間着を脱ぎ、外出着に着替えました。
お兄ちゃんの後を追いかけようと思いましたが、
よく考えると、どこに行ったらいいのかわかりません。
わたしは1階に下りて、電話の周りをうろうろと歩き回りました。

不安がピークに達したところで、お兄ちゃんが帰ってきました。
わたしが玄関に駆けつけると、驚いた顔をしました。

「○○、どうしたんだ? 寝てなかったのか?」

わたしはお兄ちゃんの全身に、くまなく視線を走らせました。
どこも怪我はしていません。両手も綺麗です。

「おかえりなさい」

そう言って、靴を脱いで上がってきたお兄ちゃんの胸に、頬を当てました。

「……! どうしたんだ?」

お兄ちゃんは怪訝そうな声をあげ、わたしの肩を抱きました。
お兄ちゃんの服が汚れておらず、血の匂いもしないので、
わたしはホッとしました。

「喧嘩してるんじゃないか、って心配だった」

「バカだな……怪我なんてさせてないよ。
 じっくり話をしたら、b君もわかってくれた。
 もう付きまとわれることはないから、安心していいぞ」

(続く)

●連載152●
2001年11月22日 19時47分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」474-478)

あのb君が話し合いでそう簡単に引き下がるとは、信じられませんでした。
思わず、疑いの声が漏れました。

「ホントに……?」

「ん? 兄ちゃんを信じられないのか?」

「でも……」

お兄ちゃんが何かb君に酷いことをしたんじゃないかという想像が、
頭の中に広がりました。

「そうか、信じてくれないのか……」

お兄ちゃんの声が淋しげになりました。

「あ、信じる、信じる、けど……」

どう反応したら良いのかわからず、わたしは困惑しました。

「心配すんな。2学期になってもまだ付きまとってくるようだったら、
 3年のcに相談してみろ」

「cさん?」

「昔可愛がってた俺の後輩だ。お前のことをよく頼んでおくから。
 俺の代わりにb君と話し合ってくれるはずだ。安心したか?」

わたしが心配していたのは、b君よりお兄ちゃんのことだったのですが、
微妙に通じていないようでした。

「うん……」

見上げると、お兄ちゃんが情けなさそうな顔をしていました。
わたしはお兄ちゃんにまだ、お礼を言っていないことに気付きました。

「ありがとう」

そう言いながら背伸びして、お兄ちゃんの頬に触れるだけのキスをしました。
お兄ちゃんはビックリしたように伸び上がりました。

わたしは恥ずかしくなって、くるりと背を向けて階段を上がりました。
部屋の扉を閉めて寄りかかると、どきどきと胸が高鳴りました。

「キス、しちゃった……」

わたしは弾みでキスをした自分の唇に指を当てました。

その後わたしは夕食の時間まで、ベッドに座ってぼうっとしていました。
階段を上がる足音がして、部屋の扉がノックされました。

「○○、ご飯だぞ。下りてこい」

お兄ちゃんは先に階段を下りていきました。
わたしはそろそろと階段を下り、ダイニングに向かいました。

久しぶりに食べるお兄ちゃんの手料理でしたが、
気恥ずかしく、ぎこちない雰囲気が漂っていました。

俯いて黙々と食べていると、お兄ちゃんのほうから口を切りました。

「○○、中学校生活はどうだ?」

「楽しい。友達も出来たし」

「UちゃんとVちゃんだったな。よかったなあ。
 よくいっしょに遊びに行くのか?」

わたしがうなずくと、お兄ちゃんは顔をほころばせました。
わたしに友達が出来たことが、本当に嬉しそうでした。

「もう、淋しくなくなったか?」

「うん……UとVには感謝してる。
 でも、お兄ちゃんが居ないと、やっぱり……淋しい。
 高校卒業したら、お兄ちゃん帰ってくる?」

「ん……ああ、たぶんな」

また、沈黙が降りてきました。
しばらくして、お兄ちゃんがぽつりと言いました。

「ところで、R君とは、結局友達になれなかったのか……?」

「R君は、なんだかわたしを避けてるみたい。
 なぜだかわからないけど……」

「そっか……」

「うん……でも、UとVが居てくれるだけで十分」

「……そうだ、お前の友達にいっぺん会ってみたいな」

「UとVに?」

「ああ、一度あいさつしてお前のことをよろしく頼みたいし」

「2人とも今、教会のキャンプに行ってるの。
 わたしも誘われたんだけど、山歩きはまだ無理だから。
 Uのお兄さんのYさんから、プールにも誘われたけど」

「体のほうの調子はどうなんだ?」

「毎月検査に行ってるけど、調子は良いみたい。
 でも、2年生になるまで、体育はずっと見学」

「そうか、じゃあ、海水浴は来年までお預けだな。買い物にでも行くか。
 キャンプが終わったら、UちゃんとVちゃんを誘ってみてくれ」

「わかった」

食後にお兄ちゃんと肩を並べて食器を片付けました。
お兄ちゃんが食器を洗い、わたしが布巾で拭いて食器棚に仕舞います。

リビングのソファーに並んで座ってのんびりしていると、
お兄ちゃんが言いました。

「今日はまだトレーニングしてないんだ。ちょっと手伝ってくれ」

(続く)

●連載153●
2001年11月23日 19時39分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」508-512)

「トレーニング……って、わたしに手伝えるの?」

お兄ちゃんはわたしといっしょに住んでいた頃、
毎朝早くにロードワークや竹刀の素振りをしていました。
でも、それをわたしが手伝えるとは思えません。

わたしが不思議そうな顔を察したのか、お兄ちゃんは説明を始めました。

「ああ……最近は違うことやってるんだ」

「剣道じゃないの?」

「高校では剣道部には入らなかった。
 前に喧嘩で人を怪我させたからなぁ……。
 誘われて柔道部に入ったけど、あんまり真面目にはやってない。
 うちの学校の柔道部弱いんだ。
 今一番面白いのは、ボクシングかな」

「ボクシングって……殴り合うのが面白いの?」

お兄ちゃんは困ったような顔をしました。

「う〜ん、面白いといえば面白いけど、
 殴るのが面白いんじゃなくて、ぎりぎりまで自分を鍛えて、
 リングで一瞬の駆け引きを楽しむのが面白いんだ。
 お前にはわからないかなぁ……」

お兄ちゃんが誰かに殴られているところを想像したら、ぞっとしました。

「……殴られたら、痛いんでしょう?」

「ん、まあ、そりゃお互い様だからな。
 だから、殴られないように練習するわけさ」

お兄ちゃんは立ち上がって拳を構え、
頭を左右に振りながら、しゅっしゅっと宙にパンチを繰り出しました。
拳が速すぎて、ぜんぜん目に留まりませんでした。

「ボクシングジムに通ってるんだ。
 練習を一日でもさぼると思うように体が動かなくなる。
 お前は時間を計ったりしてくれれば良いから」

お兄ちゃんはTシャツとショートパンツに、わたしは体操服に着替えました。
最初のストレッチはいっしょにやりました。

さっきのシャドウボクシングをするのかと思ったら、
次はウエイトトレーニングでした。
お兄ちゃんが仰向けに寝て、腹筋をする回数を数えるように言われました。

「何回でもできるようになったから、数えるのが面倒くさいんだ」

お兄ちゃんは休みなく腹筋運動を続けます。
時々声を出して数えていると、わたしの声がかすれてきました。

「そろそろ止めるか。やりすぎた」

腹筋は二千回で止めて、今度は腕立て伏せになりました。

「ふつうにやったんじゃ時間がかかる。背中に乗ってくれ。
 ……しっかり掴まってないと落ちるぞ」

お兄ちゃんのがっちりした背中に、おんぶされるような体勢になりました。
そのままお兄ちゃんは腕立て伏せを始めました。

わたしは振り落とされないように、思い切り腕に力を込めました。
急にお兄ちゃんの動きがストップして、わたしの腕を掴みました。

「うぐ、喉に入ってる……それはチョークスリーパーっていうんだ」

「あ、ごめんなさい」

腕立て伏せを再開して、お兄ちゃんが言いました。

「ちょっと、体重、増えたか? やっぱり、少し、きついな」

わたしの体重は軽いほうでしたが、それでも人ひとり背中に乗せて、
腕立て伏せを続けるお兄ちゃんの体力は驚異でした。

お兄ちゃんは腕立て伏せをして、その後背筋やスクワットをしました。
お兄ちゃんのTシャツは汗だくになり、肩が汗で光っていました。

最後に3分間のシャドウボクシングを何ラウンドかやって、
もう一度ストレッチをしました。

トレーニングを始めてから数時間経ち、
ほとんど見ているだけだったわたしのほうが疲れてきました。

「お兄ちゃん、毎日こんなことしてるの?」

「ああ、あと走るのと、手首のトレーニングかな。
 空のペットボトルあるか?」

お兄ちゃんは寝る前に水を満たしたペットボトルを振って、
手首の運動をするそうです。

わたしが眠たそうにしてくると、お兄ちゃんがお風呂を沸かしてくれました。
お兄ちゃんがわたしをお風呂に入れてくれていた、3年前に戻ったようでした。
わたしは妙に眠くて、お兄ちゃんの言葉にあまり反応できませんでした。
お兄ちゃんに頭を洗ってもらいながら、気持ちよくて寝てしまいそうでした。

翌朝目が覚めると、お兄ちゃんのベッドで寝ていました。
ロードワークから帰ってきたお兄ちゃんが、わたしを起こしに来て、
まだ寝惚けているわたしを笑いました。

「○○はなんだか、子供に戻ったみたいだな。
 ゆうべは猫の真似してベッドにもぐり込んでくるし」

ぜんぜん覚えていないことを言われて、わたしは赤くなりました。

(続く)

●連載154●
2001年11月24日 19時43分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」570-574)

「ホ、ホントに……?」

おずおずと尋ねると、お兄ちゃんはしばらく大笑いしていました。

「……っくくく、お前、覚えてないのか?
 ふざけてるのかと思ったけど、夢遊病の気があるのかもな」

わたしは自分がお兄ちゃんになにをしたのかわからなくて、
全身がカッと熱くなりました。

「早く着替えて下りてこいよ。田舎の土産も見せたいし」

お兄ちゃんが出て行ってからベッドを出て、自分の部屋に戻り着替えました。
階段を下りていくと、ダイニングテーブルに箱が積んであります。

「お兄ちゃん、これ、なに?」

「俺と田舎のみんなからのお土産だ。良いから開けてみろ」

お兄ちゃんはわたしが包みを開くのを、楽しみにしているようでした。
包装紙を破らないように丁寧に1つ目の包みをほどくと、壜でした。

壜の中には淡い色の液体が入っていて、底に何か紐のような物が沈んでいます。

「それは兄ちゃんからのお土産だ。養命酒みたいなもんだから、
 毎日小さなカップ1杯ずつ飲むといい」

ラベルには「蝮酒」と書いてありました。

「まむしのお酒?」

わたしは蛇や虫を怖いと思ったことがないので平気でしたが、
ずいぶんユニークなお土産だと思いました。

「いっぺんに飲むと酔っぱらうから、少しだけだぞ」

さっそく封を開けてくれたので、お兄ちゃんの目の前で一口飲みました。
辛くて口の中が燃えるようでした。
飲み込むと、お腹の中まで熱くなりました。

わたしが顔をしかめたせいか、お兄ちゃんの顔が曇りました。

「不味いか?」

「ちょっと、変な味。でも、毎日飲む」

「そうか、良かった。こっちはF兄ちゃんからだ」

次の包みを開けると、縦長の小さな木の箱でした。
箱の蓋を取ると、中に壜が入っています。

「朝鮮人参茶?」

「F兄ちゃんも毎日飲んでるそうだ。飲むと体があったまる。
 F兄ちゃん、お前が病気したって聞いて心配してたぞ。
 またお前が夏休みに遊びに来ると思って、楽しみにしてたんだ。
 この朝鮮人参茶は高級品らしい。
 あとでちゃんとお礼の電話して、手紙も書くんだぞ?」

わたしは、困ったことになったと思いました。
F兄ちゃんへの電話や手紙が、おっくうだったのではありません。

「……お兄ちゃん、わたし、朝鮮人参茶は飲めない」

「え? 嫌いなのか?」

「まだ飲んだことないけど、朝鮮人参は血圧を上げるから、
 腎炎の患者は飲んじゃいけないんだって」

「そっかー……う〜ん、これどうしようか」

「お兄ちゃんが飲む?」

「そういうわけにもいかないだろ。せっかくのお土産なのに。
 仕方ないから持って帰るよ。
 その代わり、F兄ちゃんから小遣いたっぷり貰ってきたから、
 買い物に行ってそのお金で何か買ってやろう」

後のお土産は、おばあちゃんからの浴衣と、Hクンのお母さんからの
温泉入浴剤でした。

ちなみに、お兄ちゃんはこの後も、アロエの栽培セットとか、
有機栽培ケール100%の青汁とか、変わった物ばかりお土産にしました。

その後の数日は、お兄ちゃんがこぐ自転車に乗って図書館に行ったり、
お兄ちゃんの自主トレーニングを手伝ったり、
体のあったまる白い温泉入浴剤のお風呂に入ったりして、
のんびりと過ごしました。毎日が夢のようにしあわせでした。

ある朝、お兄ちゃんに尋ねました。

「お兄ちゃんは、遊びに行かないの?」

「お前の友達が帰ってきて、お前が遊びに行ったらな」

「もう帰ってきてるはずだから、電話してみる」

Uに電話するとキャンプから帰ってきていて、b君とのことを訊かれました。
わたしはb君のことをすっかり忘れていたので、あわてました。

「お兄ちゃんが帰ってきて、b君とお話してくれてから、
 会わなくなった」

「ホンマかー、よかったやん!
 兄ぃに後のことよーく頼んで行ったんやけど、
 要らん心配やったみたいやな〜」

「ありがとう」

電話したときYさんが留守だったことは黙っておこう、と思いました。

「それで、Vも誘って買い物に行かない? お兄ちゃんも来るって」

(続く)

●連載155●
2001年11月25日 19時34分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」603-606,608)

「そらエエなぁ。うちの兄ぃも連れてってかめへんやろ?
 夏休みに入ったらいっしょに買い物行く約束してたんや。
 こないだはbに邪魔されたけどな」

「もしかして、それって……?」

b君のことで図書館まで来てもらったとき、
ちょうどUがY兄さんといっしょに出かけるところだったと知って、
わたしは恐縮しました。

「ごめんなさい」

「かめへんかめへん。買い物なんていつでもできるやん。
 それよりVに連絡せなあかん。
 あの子はお稽古事してるから早いめに言うとかんと」

「まだ続いてたの?」

「キャンプで聞いた話やと、お茶とお花はギブアップしたそうや。
 じーっと正座してるとおかしくなりそうやて。
 もともとおかしいのになアハハハハハハ」

「ぷ、ちょっと酷いよ。本人が居ないところで」

「本人がおってもいっしょやん。
 ほんで、その代わりにピアノのレッスン始めるんやて。
 ほら、教会でオルガン弾いてる兄ちゃんや」

「Xさん?」

「アンタが男の名前覚えるなんて珍しいな。
 VとXは親が昔から信者どうしで仲良かったらしいわ。
 親戚やないけど、お互いにいとこみたいなもんや。
 VはXに懐いとるしなぁ……」

Uの口調が面白くなさそうだったので、聞いてみました。

「妬いてるの?」

「ふん、別に。あの兄ちゃんは軽薄な感じやから虫が好かんのや。
 調子はエエけど頼んない感じするわ。
 男はもっと硬派やないとな」

「お兄さんみたいに?」

「あっ、アホか! あんなんバカで軟弱でどうしようもないわ」

「真面目な人だと思うけど?」

「馬鹿正直なだけやて。
 昔はあんなんでもカッコイイ思うてたんやけどな〜。
 変態のオタクになるとは思わへんかった……」

電話口の向こうで「誰が変態や!」「人の電話立ち聞きすな!」と
喧嘩が始まりました。

わたしは受話器を戻して、今度はVに電話を掛けました。
次の日曜日に教会で3人集まって、詳しい相談をすることになりました。

日曜日になって、お兄ちゃんとわたしはいっしょに家を出ました。
自転車のペダルをこぐお兄ちゃんの背中にしがみついて、聞きました。

「お兄ちゃんも教会に来る?」

「いや、やめとく。お前の友達に初めて会うんだったら、
 もっとマシな格好しないと。今日は久しぶりにAたちと会ってくる」

「晩ご飯は?」

「う〜ん、たぶん食べてくる」

お兄ちゃんはわたしを教会の前で降ろして、自転車で走って行きました。
教会に入ると、UとVはもう来ていました。

礼拝が終わって日曜学校が始まる前に、3人でオルガンの所に寄りました。

「おにーちゃーん!」

「Vちゃん、なんかリクエストある?」

「ちがうのー。今日はデートに誘おうと思ってー」

静かに奏でられていたオルガンの旋律が止まりました。

「で、デート?」

話がややこしくなりそうだったので、割って入りました。

「3人で、買い物に行くんです。お兄さんも、いっしょにいかがですか?」

「あ……そういうこと。○○ちゃんも来るんだったら、行こうかな〜」

目に見えて、Vの表情が曇りました。

「え……?」

わたしはぎくりとしました。XさんはにやにやしながらVに言いました。

「あはは、冗談冗談。ちょっと意地悪しただけ。
 でも、Vちゃんも○○ちゃんを見習って、
 もう少し大人しくしたほうがいいんじゃないかなー」

「もーー、いじわるーー」

VがXさんの背中を両手でぽかぽか叩きました。
わたしはホッとして、Vに言いました。

「教会で暴れちゃだめでしょ?」

「それに……僕は一応受験生なんだけどな。Vちゃんわかってる?」

Vがしゅん、とうなだれました。

「でもまぁ……気分転換も必要だし、これからレッスン中にふざけないって
 約束してくれたら、付き合ってもいいよ」

Vの顔が、一瞬で輝きました。

「うんうん約束するー。まじめにするよー」

(続く)

●連載156●
2001年11月26日 19時41分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」622-626)

受験生のXさんの予定に合わせて、数日後に買い物に行くことになりました。
教会からの帰り道、いつもの3人で歩きながら、キャンプの話を聞きました。

わたしがb君とお兄ちゃんとのことを話すと、Vの瞳がきらきらしました。

「うわー、かっこいー、白馬の王子様だねー。
 早く○○ちゃんのお兄さん見てみたいよー!
 でもー、どうしてわたしも呼んでくれなかったのー?
 b君とUちゃんの対決見たかったー」

「アホ。映画やないんやで。アンタがおったらややこしゅうなるだけや」

「うー差別だよー」

Vのお兄ちゃんへの傾倒が、少し気になりました。

「Vは、オルガンのお兄さんが、好きなんじゃなかった?」

「うん大好きー、おにーちゃん優しいし、ピアノもうまいんだよー。
 でもー、最近受験勉強があるからー、っていって
 あんまり遊んでくれなくなったんだー」

「ピアノのレッスン、頼んだんでしょ? よく引き受けてくれたね」

「だってー、わたしとは遊ぶ暇ないっていうくせにー、
 ピアノは毎日弾いてるんだっていうからー、教えてってお願いしたのー。
 大パパも頼んでくれたんだよー」

孫に甘いあのおじいちゃんに頼まれたのでは、とても断れなかったのでしょう。
Xさんも大変だなあ……と思いました。

「今日はこのまま解散か? 兄ちゃんが待ってるんやろ?」

「お兄ちゃん、今日は友達と遊びに行ったから……。
 久しぶりにパフェ、食べに行かない?」

「いこーいこー」

わたしは食事制限の関係で、外食があまりできませんでしたが、
アイスクリームなら問題ありませんでした。

まだ明るいうちに家に帰り、夕食の支度をしましたが、
やっぱりお兄ちゃんは帰って来ず、ひとりで食べました。

わたしの料理の腕前がまだまだなのか、お兄ちゃんが居ないせいか、
あまり美味しくありませんでした。

ずいぶん遅くなって、ベッドで本を読んでいると、玄関で物音がしました
お兄ちゃんだ、と思って立ち上がり、部屋のドアを開けようとして、
お兄ちゃんの足音がしないことに気付きました。

お兄ちゃんが立てるスリッパの音を、わたしは聞き分けることができます。
足音がしないということは……泥棒? もしかして……b君?
わたしは硬直しました。

そーっとノブを回し、部屋から出て、階下を覗いてみました。
お兄ちゃんが、抜き足差し足で階段を上がってくるところでした。

「……おかえりなさい、お兄ちゃん、何してるの?」

「!……あ、○○、ただいま。起きてたのか」

お兄ちゃんは妙にそわそわしているようでした。
上がってきたお兄ちゃんの息が、わたしにかかりました。

前に嗅いだことがある、臭いにおいがしました。お酒のにおいです。

「お兄ちゃん……お酒飲んできた?」

「え? ん、ああ、ちょっとだけな……」

お兄ちゃんはお酒が顔に出ない質ですが、
とてもちょっとだけ、というにおいではありませんでした。
わたしは顔をしかめて言いました。

「すごいにおい……。どこで飲んだの?」

「Aん家でさ。Aが良い酒あるっていうもんで……つい……」

わたしはお兄ちゃんの胸に顔を近づけました。

「煙草もいっぱい吸ってきたんでしょ?
 体に悪いから、吸わないほうが……」

服のにおいを嗅ぐと、かすかな汗くささと、甘い……香りがしました。
驚いたわたしが胸に抱き付いて鼻を埋めると、お兄ちゃんが声を上げました。

「お、おい! 階段で危ないだろ」

わたしはよろよろ後じさりました。

「……お兄ちゃん……ウソ、ついた?」

「へ? なんのことだ?」

「Aさんと遊んできた、ってウソ。服に、香水のにおいがついてる。
 女の人といっしょだったんだ……」

お兄ちゃんの顔を見ていたくなくて、わたしは自分の部屋に入り、
バタンと扉を閉めて、ふだん掛けない鍵を下ろしました。

「おい! ○○、話を聞いてくれ!」

どんどん、とドアを叩く音がしましたが、わたしは布団をかぶって、
耳をふさぎました。

翌朝の目覚めは最悪でした。自分の目蓋が腫れているのがわかりました。
顔を洗おう、と思って起き出し、ドアに耳を当てました。

人の気配がしないことを確かめて、鍵を開けドアを押しました。
重くて動きません。渾身の力を込めて押すと、少しだけ開きました。
隙間から顔を出して見ると、お兄ちゃんがドアにもたれて寝ていました。

(続く)

●連載157●
2001年11月27日 19時36分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」661-665)

お兄ちゃんの横顔は蒼白で、口を少し開けて倒れていました。
わたしはいっぺんに目が覚めました。

ドアの隙間から抜け出して、お兄ちゃんの頭の脇に膝をつきました。
そーっと手のひらを口元に当てると、ちゃんと息をしていました。

ホッとして、わたしは洗面所に下りました。
顔を洗って、タオルを濡らして絞り、また階段をそっと上がりました。

横座りしてお兄ちゃんの頭を太股に乗せ、タオルを額にかぶせました。
お兄ちゃんが「んーーー」と声をあげて身じろぎしました。

「!……○○か?」

「お兄ちゃん、おはよう」

「あ、おはよう」

お兄ちゃんは、いがらっぽいような声を出しました。

「こんなとこで寝ると、風邪引くよ」

「ん……ああ。すまん」

「お兄ちゃん……もう良いから」

「……なにが?」

「無理してわたしと遊ばなくても……。
 彼女が居るんだったら、その人と遊べば良い。
 たまに帰ってきてくれたら、それで良いから……。
 お兄ちゃんにウソつかれるのだけは、イヤ」

言いながら、胸の奥が凍えていくのがわかりました。
お兄ちゃんに嘘をつかれたのが、なによりも悲しかったのです。

「○○……お前、誤解してるよ。
 いいからちょっとだけ話を聞いてくれ。
 昨日Aの家で酒盛りしたっていうのは本当なんだ。
 アイツの部屋でこっそりな。
 そうしたら、アイツのお姉さんが帰ってきてな、見つかっちゃったんだ。
 ばらされたくなかったら仲間に入れろだって。
 俺もAも酒は強いんだけど、お姉さんは弱かったみたいだ。
 酔っぱらって、俺に抱き付いてくるんで参った。
 Aのお姉さんを突き飛ばすわけにもいかないしな。
 それだけだ。誓って何にもしてないし、付き合ってもいない」

「誓う?」

「誓う。今までのお前との想い出を全部懸けてもいい」

“誓う”ことは、わたしにとって“約束する”より神聖な言葉でした。
わたしは今までの生涯で、数えるほどしか誓いを立てたことがありません。

「信じる。
 ……ごめんなさい、お兄ちゃん。こんなとこに寝かせちゃって。
 背中痛いでしょ……?」

「平気だよ。友達ん家で雑魚寝するのは慣れてる。
 それより、ちょっと二日酔い気味かな……」

お兄ちゃんはパッと身を起こして立ち上がりました。

「走ってくるから、風呂沸かしといてくれ。入浴剤入れてな。
 先に入っておいていいから」

「だいじょうぶ……?」

「軽く走って汗かいて、アルコール抜いてくるよ。昨日は飲み過ぎた」

お兄ちゃんがロードワークに行くのを見送って、お風呂にお湯を溜めました。
湯冷めしない温泉入浴剤を入れると、お湯が白く濁ります。

白いお湯に肩まで浸かって足を伸ばすと、頭がすっきりしてきました。
ゆっくり体と頭を洗って、またお湯に浸かっていると、
お兄ちゃんが帰ってきました。

お風呂場の磨りガラスに、お兄ちゃんの影が映りました。

「○○……もう上がるか?」

「うん」

「汗だくだから、俺も早く入りたいんだ」

「え……うん、良いよ」

視線を泳がせていると、お兄ちゃんが腰にタオルを巻いて入ってきました。
掛け湯するときにタオルを取りましたが、
残念ながらお兄ちゃんは向こうを向いていたので、何も見えませんでした。

湯船に入ってくるときに、ちらっと視線を走らせましたが、
おにいちゃんの手が肝心な部分を隠していて、
わたしの目に見えたのは、手のひらからはみ出した毛だけでした。

それでも、あんなに周りまでふさふさと毛が生えているのか、
と少なからずショックを受けました。

「お兄ちゃん……」

「ん、なんだ?」

お兄ちゃんはお湯に浸かって、気持ちよさそうに答えました。
お兄ちゃんの伸ばした足が、わたしの腰をはさむような形になりました。

「お兄ちゃんって、毛深いほう?」

「え? 別にそんなことないんじゃないかな。胸毛も生えてないし。
 髭も2日に一度剃ればいいぐらいだし」

「中1のころに……生えてた?」

「そうだな。髭が伸び始めたのはそれぐらいかな」

わたしが聞きたかったのは、違う部分の毛でしたが、聞き直せませんでした。

(続く)

●連載158●
2001年11月28日 19時40分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」686-690)

「お兄ちゃん、体洗わないの?」

「ん、もうちょっとゆっくり浸かってからな……。
 ……お前、真っ赤じゃないか」

「う、うん」

「のぼせたんじゃないか? もう上がったほうがいいぞ。
 俺はのんびり入ってるから」

そう言って、お兄ちゃんは壁の方を向きました。
わたしは立ち上がり、お兄ちゃんと同じように、手の平であそこを隠して
湯船を出ましたが、お兄ちゃんが見ていないので無意味でした。

お兄ちゃんはいつも長風呂です。
わたしは待っているあいだに、朝食の支度をすることにしました。
といっても、ご飯におみそ汁に卵焼き、納豆と海苔ぐらいなので簡単です。

わたしがお兄ちゃんに、朝ご飯を作ってあげるのは異例でした。
わたしは朝が弱くて、お兄ちゃんのほうがずいぶん早く起きていたからです。

お兄ちゃんがお風呂から上がってきて、ダイニングに入ってきました。

「お、朝飯出来てるのか。気が利くな」

食卓に着いて、朝ご飯を食べながら話をしました。

「みそ汁の味付けが上手くなったな。でもお前には塩分多すぎないか?」

「おつゆは残すから」

「成長期だっていうのに、お腹いっぱい食べられないのはつらいな……」

「もともと、そんなに食べられない。だから成長が遅いのかな……」

「そんなことないって。去年よりずっと背も伸びてる」

たしかにこの1年のあいだに、身長と体重はかなり増えていましたが、
お兄ちゃんとの差は、むしろ広がっていました。

「今日は出歩かないで家でごろごろしてようか」

「疲れてるの?」

活動的なお兄ちゃんにしては、珍しいと思いました。

「たまにはいいさ。ビデオでも観よう」

「ビデオって、映画?」

リビングにビデオデッキはありましたが、わたしはふだんテレビを観ないので、
ほとんど触ったことがありませんでした。

「そんなもんだ。Aにいろいろ貸してもらったのがある」

食器を片付けてリビングに移動し、軽くマッサージし合いました。
ソファーにうつぶせに寝たお兄ちゃんの背中にまたがり、
背骨の両側をげんこつでグリグリすると、とても気持ちよさそうでした。

わたしは全身をマッサージされると寝てしまいそうだったので、
首と肩だけ軽く揉んでもらいました。

雨戸を閉め切って、蛍光灯を暗くすると、映画館のような雰囲気になりました。
お兄ちゃんが持ってきた鞄から、ビデオテープを取り出しました。
ビデオテープのラベルにはタイトルがなく、数字が書いてあるだけでした。

「お兄ちゃん、題名がわからないよ?」

「ああ、ダビングしてもらったやつだからな」

ソファーに並んで寝そべって、ビデオデッキをスタートさせました。
1本目は、テレビ番組の録画を編集したもののようでした。
ボクシングの試合のタイトルマッチです。

「お兄ちゃんも……こんなことするの?」

「試合はまださ。それにこんなプロの試合とは違うよ」

リングの上で汗みどろになって殴り合っているのを観ると、身が縮みました。
どうしてこんな痛そうなことをするのか、理解できませんでした。
わたしが抱き付くと、お兄ちゃんは「○○は恐がりだなぁ」と笑いました。

2本目は、日本映画でした。『台風クラブ』です。
冒頭近く、工藤夕貴が布団の中でオナニーをするシーンが映し出されました。

わたしは息を呑みました。お兄ちゃんも固まってしまいました。
エアコンが効いているはずなのに、汗をかいてきました。

でも、そのまま続けて観ているうちに、映像に引き込まれていきました。
1回観終わってから、昼食を簡単に済ませて、また最初から観ました。

後半になると目が痛くなってきて、目蓋が重くなりました。
必死で目を開けていようとしましたが、いつの間にか寝てしまいました。

ふと目が覚めると、お兄ちゃんの腕に抱かれるような形になっていました。

「あ! ごめんなさい。わたし、寝てた?」

「いいさ。あんなに夢中になるとは思わなかった。面白かったな」

「うん。すごく面白かった。また観たい」

「今日はこれぐらいにしとくか。テープはまだあるから、今度また観よう」

この時に観たのはテレビ放映版でしたが、あとでノーカット版も観ました。
今でも、わたしの一番好きな映画です。

そうして、UやVと約束した、買い物の日がやってきました。
お兄ちゃんはいつもより、身だしなみに気を遣っているようでした。

「お兄ちゃん、今日はいつもと違うね?」

「お前の友達にみっともない格好は見せられないからな」

UやVがお兄ちゃんに惹かれないかと、心配になってきました。

(続く)

●連載159●
2001年11月30日 19時6分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」705-709)

わたしはお兄ちゃんのこぐ自転車の荷台に横座りして、駅までの道のり、
お弁当の入った鞄を揺らさないように、お腹に抱えていました。

外食だとわたしに食べられないメニューが多いので、
それぞれでお弁当を作って、持ってくることになっていました。

お兄ちゃんが早起きしてどんなおかずを作ったのかは、
「開けるまでのお楽しみだ」と言うことで、教えてもらえませんでした。

駅前の駐輪場を出て、待ち合わせ場所が見える所まで歩いていくと、
UとYさん、VとXさんの4人が、立ち話しているのが見えました。

Vがわたしに気がついて、「○○ちゃーん!」と大きな声をあげ、
駆け寄ってきました。Vは「あー、お兄さんだー!」と言って、
進路を変えました。

わたしはVの意図に気づいて、お兄ちゃんの前に出ました。
お兄ちゃんへの衝突コースに乗っていたVは、
立ちはだかったわたしに、相撲の立ち合いのようにぶつかってきました。

わたしの目論見では、Vを抱き留めるはず、だったのですが、
軽量級のわたしは、なすすべもなくそのまま押しまくられ、
後ろのお兄ちゃんに抱き留められて、やっと止まりました。

「お、おい……だいじょうぶか?」

わたしとVとの、華々しすぎる再会シーンに度肝を抜かれたのか、
お兄ちゃんの声はうわずっていました。

「お兄さんはじめましてー!」

「お兄ちゃんありがとう、わたしはだいじょうぶ。
 V……ちょっと」

やっと止まったVを、わたしは抱きついたまま引きずっていきました。
道の端に寄って、耳打ちしました。

「V……あなた、人見知りするんじゃなかった?」

Vは初対面の人の前では、借りてきた猫のようになってしまうのです。

「えー? だって○○ちゃんのお兄さんなら他人じゃないでしょー?」

「……そういうことは、小さな声で言って」

Vはひそひそ声で抗議してきました。

「でもどうしてさっき邪魔したのー?」

「お兄ちゃんに抱き付いたらダメ」

「えー○○ちゃんばっかりずるいよー」

そんな羨ましいことは、わたしでも滅多にしていません。
わたしはVの肩に顎をのせて、囁きました。

「ダメなものはダメ。今度お兄ちゃんに抱き付いたら……コロス」

Vは黙って、首をカクカク縦に振りました。
抱擁をといてお兄ちゃんの所に戻り、Vを紹介しているあいだも、
お兄ちゃんはまだぽかんとしていました。

Uたち3人の所まで歩いていって、みんなで名乗りあい、
デパートに向けて出発しました。

人通りが多かったので、わたしたちの行列は縦に長くなりました。
一番後ろにいたわたしに、Uが近づいてきて、耳許で囁きました。

「さっきはオモロイもん見せてもろたな。
 アンタもVの行動パターンが読めるようになったか」

「…………」

「そんなブスっとせんとき。
 そやけどアンタの兄ちゃんカッコエエなあ……。
 うちの兄ぃと交換してくれへんか?」

「いや」

と即答しました。Uは「けち」と言って離れていきました。
今度はお兄ちゃんが隣に来て、怪訝そうな声で言いました。

「Vちゃんって……いつもああなのか?」

「いつもは……だいたい変だけど、今日は特に変みたい」

「そうか……? でも、飽きなくて面白いだろ」

「うん」

「混んできたな、手、つなぐか?」

いつもお兄ちゃんは人混みで、黙ってわたしの手をとってくれるのですが、
今日はわたしの友達が居るせいか、気を遣ってくれているようでした。

前の方に目をやると、VはXさんの腕にぶら下がっていました。
Uは何を話しているのか、Yさんと背中を叩き合っていました。

たまには、これぐらい良いよね、とわたしは内心思いながら、
Vにならってお兄ちゃんの腕をとり、胸に抱きました。

「お、おい……」

お兄ちゃんはビクリと身をすくめましたが、振り払いはしませんでした。

「Vもやってる」

腕にぶら下がってくっついて歩いてみると、身長差があるせいか、
ひどく歩きにくいことがわかりました。

でも、お兄ちゃんと腕を組んで歩いていると思うと、
全身の血が沸騰したように熱くなってきて、汗ばんできました。

デパートに着く前に、お兄ちゃんが「歩きにくくないか?」と聞いたので、
わたしは「やっぱり、歩きにくいね」と言って腕を放しました。
本当は、心臓がどっくんどっくんしているのを、悟られたくなかったのです。

(続く)

●連載160●
2001年12月1日 19時44分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の思い出〜Part7」737-741)

デパートに入って、UとVを先頭にした散策が始まりました。

「U、どこ行くの?」

わたしがデパートで買い物をする時は、最短時間で目的を済ませて、
後は書籍フロアに移動するのが常でした。

「たっぷり時間あるんやから、一回り冷やかそか」

売り場に陳列された商品に、UやVが遠慮のない批評を加えていきます。
わたしは店員に声が聞こえるのではないか、と気を揉みました。

「何か買いたい物はないの?」

そうUに尋ねると、Uは気味の悪い笑みを浮かべました。

「んふふふふふ……夏は、海や! やっぱり新しい水着を買わんとな」

忙しく視線を走らせていたVも賛成しました。

「そうだねー、去年のがもう着られなくなったよー。
 ○○ちゃんもいっしょに買おうよー」

「無理……わたしは、運動を禁止されてるから」

「泳がなくても海に行くだけで楽しいよー? ねーねー」

「日射しが強いと、肌が真っ赤になるし、貧血起こしちゃう」

「むーー」

「そやなぁ……海があかんのやったら、室内プールがエエんちゃう?
 アンタが来ぃへんとおもろないしなぁ」

UとVは、わたしを置いて2人でキャンプに行ったことを、
気にしているのだろうか、と思いました。

「プールじゃ面白くないでしょ?」

「そんなことあらへん。ウオータースライダーもあるしな。
 温泉のあるとこもあるらしいで。温泉はアンタにもエエんちゃう?」

「温泉……いいかも」

「よっしゃ、決まりやな。今日はアンタに水着選んだるわ」

「わたしとお揃いにしないー?」

「それは遠慮する」

Vとお揃いにしたら、わたしが浮いてしまうのは目に見えています。

「そろそろお昼にしよか」

「もう?」

「混んでくる前に、場所取らんとな」

目立たない場所にある休憩所には、ベンチがいくつもありました。
お兄ちゃんたち男性陣もやってきましたが、
3人とも初対面同士のせいか、まだぎこちない雰囲気でした。

お兄ちゃんが自動販売機で缶入りのお茶を買っているあいだに、
わたしが鞄を開けると、中には4段重ねの重箱が入っていました。

「○○ちゃんのお弁当すごいねー」

Vが感心したように声をあげました。わたしも実は驚いていました。
とても2人では食べきれません。3〜4人で食べるような量でした。

蓋を開けると、さっそくYさんが覗き込んできました。

「美味しそうだね。お母さんが作ったの?」

「いえ……」

「へぇ。その卵焼き、綺麗に焼けてて美味しそうだね。1個くれない?」

「わたしもー」

「兄ぃ! 卵焼きやったらこっちにもあるやろ! 意地汚いで」

「お袋の卵焼きにも飽きた。時々失敗して焦げてるしな」

Yさんの手のひらに卵焼きを1個のせてあげると、一口で食べられました。

「んーダシがきいてて美味しい。
 ○○ちゃん料理上手いんだね。Uにも教えてやってよ」

Uを見ると、顔色が変わっていました。わたしはあわてて言いました。

「お兄さん、違います」

Yさんはわたしの否定を聞き流して、お兄ちゃんに顔を向けました。

「△△さん、妹さんをうちのと交換しませんか?」

お兄ちゃんが返事をするより早く、Uが立ち上がりました。

「兄ぃのバカー! もう二度と作ったらへん!」

Uはそれだけ言って走り去りました。
その場に残された一同は唖然として、引き留めることもできませんでした。

「……お兄さん、さっきのは冗談だったんでしょう?」

「……そやけど、アイツなんであんなに怒るんや?」

Yさんは、見るからにうろたえていました。

「このお弁当を作ったのは、わたしじゃなくて、お兄ちゃんです。
 それに……そのお弁当を作ったのは、きっとUです」

「え? アイツそんなこと一言も……」

「とにかく、追いかけてください」

「……アイツ、どこに行ったんやろ」

わたしはしばらく考えました。

「Uはわたしたちを放り出して、家に帰るような子じゃありません。
 たぶん……トイレです。顔を洗ってると思います」

「……? でも、女子トイレには入れないよ」

「一番近くの女子トイレの前で、待ってれば良いです」

「ありがと」

Yさんは立ち上がって、駆けて行きました。

(続く)


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