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お兄ちゃんとの大切な想い出 連載131〜140

「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」に掲載した連載131〜140を抽出したものです。それ以前の連載は、my brother (by 抽出係さん)でご覧になれます。番外編もあります。(管理人:お兄ちゃん子)

121〜130
131132133134135
136137138139140
141〜150

●連載131●
2001年10月30日 19時52分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」521-525)

「……それって、テストに出るんか?」

「え? 出るわけないでしょう?
 でも、そろそろ勉強始めないと……寝る暇無くなる」

「アンタは勉強好きやなぁ……」

「好き? そんなこと、ない。
 今日は勉強会も兼ねてるから、しないとまずいかな、って」

「○○は毎日何時間ぐらい勉強してるんや?」

「平日は、6時間ぐらい」

「6時間! ……ウソやろ?」

「Uだって、同じだけ勉強してるでしょう?
 同じ授業、受けてるんだから」

「学校の授業は別や! 家での勉強!」

「家で勉強? してない」

Uは、信じられないといった顔で、まじまじとわたしを見ました。
Vも首を傾げています。

「じゃあじゃあ、宿題はいつするのー?」

「お昼休みとか休み時間に。教科書持って帰ると、重いから」

「へー。わたしは家で毎日2時間勉強してるけど、
 宿題やったらあんまり時間残らないよー」

Uが目を剥きました。

「V、アンタ、毎日予習復習してたんか?」

「うん。中学生になったんだから、勉強遅れるといけないでしょー?
 Uちゃんは何時間ぐらいしてるのー?」

「…………」

Uはあまり答えたくなさそうでした。

「なんや自分がみじめになってきてしもた。勉強、しよか」

3人とも、テーブルに教科書と問題集とノートを広げました。
ノートはそれぞれ、対照的でした。

Uのノートには、ぎっしりと板書内容が書き込んでありましたが、
字が汚くて読みとれません。余白は落書きだらけです。

Vのノートには、丸っこい字が整然と書き込んでありました。
マーカーを使って色とりどりに、必要以上の飾り付けがしてあります。

わたしのノートを覗き込んで、Uが質問してきました。

「○○のノート、板書と全然違うやないの。
 文を丸で囲って矢印とか引いてるんはどういう意味なん?」

「わたし、字を書くのが遅いから、黒板写してたら間に合わない。
 要点を抜き書きして、それぞれの関係を囲いや記号で表してる。
 KJ法もどき」

「けーじぇーほう、ってなんや?」

「昔、川喜田二郎という人が考えた、問題解決技法の一種。
 細かいデータを1つ1つ、小さなラベルに書き出して、
 関係あるラベル同士をグループにする。
 グループ全体を線で囲って、代表するラベルを作る。
 ラベル同士の関係を記号で表す。
 こうすると、雑多なデータを、1つの図にまとめられる。
 ノートを取るときには、これを頭の中でするから、
 正式なKJ法とは違うけど」

「……このノートあったら、テストは楽勝やな……。
 ちょっと見せてくれへんか?」

「うん。ノート作ってるあいだに、頭に入ってるから、
 テスト終わるまで貸してあげる」

「よっしゃー!
 その代わり、アンタが休んでた日のノート見てエエで」

「Uのノート……字が読めないんだけど」

勉強会は、Vのお母さんがおやつを持ってくるまで続きました。
わたしはいつも早寝していたせいか、目蓋が重くなってきました。

「V、いつ寝るの?」

「○○ちゃん、もう眠いのー?」

「夜はこれからやで?」

「うん……」

「じゃあ、先にお風呂に入ろー? もう入れるはずだよー」

「そやな、Vと風呂に入るんも久しぶりや。いしししし。
 どれぐらい成長したんか確かめんと。今日は3人で入ろ」

「Uちゃん笑い方がやらしーよー」

「3人一緒だと、狭くない?」

「ここん家の風呂場はめっちゃ広いねん。3人ぐらい平気や」

3人でぞろぞろと脱衣所に行きました。
風呂場は田舎の家と同じぐらい、広々としているようでした。

Vが真っ先に、ぱっぱっとパジャマと下着を脱ぎ散らかしました。
Vの体はふっくらしていて、予想以上に胸に量感がありました。
そのうえ、すでに陰毛がうっすら生えています。

わたしは急に、服を脱ぐのが嫌になってきましたが、
今さら帰るわけにもいきません。

わたしが背中を向けて、そろそろとパジャマを脱ぐと、
Uがだしぬけに後ろから胸に手を回してきました。

「……!」

わたしは悲鳴を、喉の奥に呑み込みました。

(続く)

●連載132●
2001年10月31日 13時25分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」546-550)

「…………」

もみもみ。

「……痛い」

もみもみ。

「……手、どけて」

「……ちっ、アンタはなんでそんな冷静なん?」

Uがようやく、手を引っ込めました。
わたしが騒がないので、張り合いに欠けたのでしょう。
わたしは単に、突然のことで全身が硬直していたのですが……。

「U……そういう趣味、あったの?
 ハッ、もしかして、Vとも?」

そこで振り向いてVに目をやると、羨ましげな目つきをしていたので、
疑惑が確信に変わりかけました。

Uがあわてて手を振りました。

「ちゃうちゃう! そんな趣味あれへん。
 今のは冗談やんか。マジに取らんといて」

「でも……」

わたしは疑いの眼で、Uをじーーーと見つめ続けました。
ふい、とUが視線を逸らしました。

「……やっぱり」

「アホか! アンタの目、怖すぎや。Vもなんとか言いぃな」

Vがうつむいて、淋しげにつぶやきました。

「Uちゃん、わたしが触ると逃げるのに、○○ちゃんだといいんだぁ」

「V、アンタそんなん言うたら逆効果やん!
 ○○、誤解せんといてな。Vがあんまりべたべたするよってに、
 うっとかった(鬱陶しかった)だけや」

「U……自分にされたくないことを、人にはするのね」

わたしが氷点下の眼差しを送ると、Uは白旗を揚げました。

「もうせえへんから、許してぇなー」

ふだん強気なUのあわてぶりを見ていると、怒りが薄れていきました。

「わかった」

「○○ちゃん、わたしも1回だけしていいー?」

「ダメ。しようとしたら、帰る」

「Uちゃんだけずるいよー」

3人とも裸になると、体格の違いが際だちました。
一番大柄なVは、胸も腰も平均以上に成長していました。
小柄なUでさえ、胸はわたしより大きく、陰毛も生えかけています。

わたしが向ける食い入るような視線に、Uが苦笑しました。

「なにジロジロ見てるんや? そんな珍しいモンとちゃうやろ?
 早う入ろ」

わたしが先に湯船に浸かり、UとVが交替で背中を流しました。

「○○、ホンマにほっそいなー。何キロあるん?」

わたしが体重を答えると、Uは驚いたようでした。

「わたしより軽いやん! ご飯ちゃんと食べてるんか?
 こっちぃ。背中流したる」

わたしが立ち上がると、Vがわたしのお腹を見て声を上げました。

「お腹ぺったんこだー。触っていい?」

「ダメ」

「ケチー。わたしのお腹、つまんでいいからー」

Vがお腹の肉をつまんで見せました。少し、分けてほしいと思いました。
自分で試してみると、皮しかつまめません。

「…………ハァ」

わたしが洗い場で腰を下ろすと、泡立ったスポンジの感触が背中で上下しました。

「元気出しいな。まだ中1やん。今はホネホネやけど、
 まだまだ胸かて大きゅうなるし、毛も生えてくるて。
 お菓子ばーっかり食べてVみたいに太るよりマシや」

「わたしそんなに太ってないよー」

風呂から上がってみると、1人で入ったときより疲れたような気がしました。
ふたたびパジャマを着て、さっきとは違う部屋に案内されました。

Uの部屋のシングルベッドでは狭すぎるので、
客間のダブルベッドに3人で寝ることになったのです。
わたしを真ん中にして、川の字の形に寝そべりました。

「○○、もう眠いんか?」

眠気が募ってきていましたが、せっかく初めてのお泊まりに来たのです。
少しでも長く、話をしたくなりました。
わたしが首を横に振ると、Uが芝居がかった口調で宣言しました。

「それやったら、寝るまで作戦会議や!」

「……作戦、って?」

「○○は危機感足りへんなぁ……。
 アンタは、いやわたしらは、テストより大きい危機に直面してるねんで?」

(続く)

●連載133●
2001年11月1日 19時43分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」587-591)

「危機……?」

Uにとって、テストより重大な危機とはなんだろう、
と考えを巡らせましたが、さっぱり見当もつきません。
Vの顔を見ても、?マークが浮かんでいます。

「テストが終わったら林間学校があるやろ?」

わたしたちの学校では毎年、1年が林間学校、2年が臨海学校、
3年が修学旅行に、泊まりがけで行くことになっていました。

小学校の修学旅行に参加できなかったわたしにとっては、
今度の林間学校が、学校行事として宿泊する、初めての旅行です。

「林間学校のメインイベントは、昼間の遠足やのうて、実は夜のお泊まりや」

わたしは昼間の行事の遠足には参加できませんが、
夜泊まるのは、当然みんなと同じ部屋です。

「それが……危機?」

わたしは首を傾げました。

「ふっふっふ、なーんもわかってへんなぁ?」

「うん」

「アンタら、クラスの政治ってモンにうとすぎやで。
 そんなんやったらこの世紀末、生き残られへんで?」

「政治?」

Uの大げさな物言いに、これは大がかりな冗談かと思いました。

「情報部の分析によると、クラスの女子の勢力分布は、主流派、
 非主流派、反主流派に三分されてるねん」

自分の顔に、縦筋が入ってきたような気がしました。

「……情報部?」

「わたしのこっちゃ。
 この3人で、アンテナ張ってるんはわたしだけやからな」

もしかして、Vの親友だけあって、Uにも妄想癖があったのか、と思いました。

「最大派閥の主流派の首領が、aや」

「……誰だっけ?」

Uが、呆れたように言いました。

「……あのなぁ……女子で一番目立ちたがってるヤツおるやろ?」

頭の中で記憶を検索して、ようやくひとりの女子の顔が浮かびました。
人の顔と名前を結びつけるのが、わたしは大の苦手なのです。

「あ……わかった。たぶん」

「aは顔も可愛いし、家は金持ちや。成績もエエ。
 これで性格ブスやなかったら良かったんやけどなぁ……」

サイドスタンドの赤い光に照らされたUの表情が、憎々しげになりました。
なにかaとのあいだに、因縁があったのかもしれません。

「自分より目立つモンが周りにおると気にくわんちゅうんが最悪や、
 そのくせ自分の手は汚さんとクソみたいな噂流しよる」

いくらなんでも、ここまで口汚いのは尋常ではありません。

「U……言い過ぎじゃない?」

「ハァ? なに言うてんの。
 あっちこっちで聞いた情報を総合したんやから間違いあらへん。
 だいたい、噂流されてる第一の標的はアンタやで?」

「え? わたし? ……でも、どうして?」

名前も覚えていなかったaさんに、恨まれるような心当たりはありませんでした。

「平たく言うと、主流派はaとその取り巻きや。
 わたしらが目の敵にされるんは、aのこと気にもしてへんからやろ。
 主流派には入らへんでも、目を付けられてへんのが非主流派、
 わたしらは主流派の許しもなく好き勝手しとるから反主流派ちゅうわけや」

「なぜ、許しが必要なの?」

「女王様やからな。無視されるんと目立たれるんが我慢できへんのやな」

「わからない……」

「アホに道理は通じんちゅうこっちゃ」

「…………」

「わたしはaのこと鼻で笑うてたし、
 Vはあれで口閉じとったら可愛いし、家も金持ちや。反感買うわけや」

寝てしまったのかと思っていたVが、うー、とうなって抗議しました。

「わたしは?」

「aはガリ勉して私立中学に入るつもりやったらしいわ。
 試験に受からへんかったんやからお笑いぐさやけどな。
 それやのにアンタは涼しい顔してaより成績がエエ。
 aのことライバルとも意識してないんやから傑作や」

「そんなことが原因?」

「どうやら、それだけやないみたいや。
 b、て知ってるか? 男子のリーダー格の」

「えーと……」

男子の顔と名前を覚えるのは、女子よりもっと苦手でした。

「まぁエエ。とにかくそのbが、アンタにラブっちゅう噂があるねん」

「ええ!?」

青天の霹靂でした。

(続く)

●連載134●
2001年11月2日 20時12分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」616-620)

「ホントぉー? ○○ちゃんモテモテだー」

「……ウソ、でしょ?」

わたしは首をひねりました。
面識もない(はずの)b君に惚れられるなんて、信じがたい話です。

「まぁ、コレは根も葉もない噂やとわたしも思う」

ホッとしました。

「……問題は、aがその噂を信じてるらしいちゅうこっちゃ。
 せやからアンタのことがチョーむかつくんやろな。
 ホンマにアホやなぁ……」

なんとなく、頭の中に1つの図式が見えてきました。

「つまり、aさんは、b君が好きなんだ」

「ちゃうちゃう。
 うちのクラスは男子と女子の仲が悪いねん。
 女子のリーダーのaと男子のリーダーのbはイガミおうてる」

「…………ハァ?」

わたしは間抜けな声を上げました。
出来上がったばかりの図式が、あっけなく崩れていきました。

「ぜんぜん、わけがわからない……」

「まぁアンタには無理やろな。
 これがビミョーな乙女心ちゅうやっちゃ。
 bのコトは好きやないけど、
 男子のリーダーが他の女にちやほやするんは許せへんのやろ」

「…………」

開いた口がふさがりませんでした。
Uの分析が本当なら、aさんの動機はあまりにも馬鹿げています。

「ホンマに呆れた話やで。
 そんなわけで、アンタが今一番ホットな火種になってるわけや」

Uはひとりで、うんうんとうなずきました。

わたしは、今聞いたaさんの理不尽さに呆れているのか、
それともこんな誇大妄想じみた話を思いつくUに呆れているのか、
自分でもよくわかりませんでした。

「ところで……危機ってなんだっけ?」

「あ……忘れとった。
 アンタが話の腰折るから、脱線してもうたやん」

「……あ、そう」

「林間学校のお泊まりの時間に、早う寝るヤツはおらへん。
 下手したら徹夜でお喋りするはずや。
 aにしてみたら悪辣な罠をしかける絶好のチャンスや。
 うっかり失言したら、次の日には学校中に尾鰭つきで広まってるで」

「…………」

どうも被害妄想じみて聞こえましたが、Uの勢いはまだまだ止まりません。

「定番のネタで盛り上がるとしたら、たぶん猥談になる。
 ○○、アンタ『オナニーしてる?』て聞かれたら、なんて答える?」

「してる」

「……ホンマか? 指は何本入れる?」

「指は入れない。マッサージャー使ってるから」

「…………なんやて?」

Uの口があんぐりと開きました。

「あ、あ、アンタ……そんなモン入れて、痛くないんか?」

Uの口調に、珍しく照れが混じっていました。

「……? 入れるって、なにを?」

わたしの認識では、マッサージャーは入れるものではありませんでした。
ある種のバイブレーターと同じ形をしているなんて、知るわけがありません。

「マッサージャーやがな!」

「マッサージャーは、入れるものじゃなくて、あそこに当てるものだよ?」

「…………ビックリしてまだ心臓ばくばく言うてるわ。
 せやけど、アンタがオナニーしてるだけでも意外やったで。
 てっきりなーんも知らんのか思うてた」

「わたしもびっくりだよー」

VがUに同意しました。

「そう? Vはオナニー、してないの?」

「えー? やだーそんなのー、恥ずかしくてできないよー」

Vはくねくねと身もだえしました。

「せやけどアンタ、マッサージャー使うなんていつ覚えたんや?
 変な雑誌でも読んだんか?」

「最初から。お兄ちゃんに教えてもらった」

「……!」

「きゃーーーーーー!!!」

耳元でVに叫ばれて、耳の奥がキーーンとしました。

(続く)

●連載135●
2001年11月3日 20時14分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」659-663)

「V……静かにしてくれる?」

Vに声を掛けてUを見ると、目と口がまん丸になっていました。
わたしは、自分が失言してしまったことに気づきました。

「U、V……2人ともなにか、誤解してない?」

「誤解って……アンタ……」

「お兄ちゃんがオナニーしてるのを偶然見て、
 後で真似しただけ。
 直接教えてもらったわけじゃない」

はあーー、と大きく、Uが息を吐き出しました。
なんとか、最悪の誤解は避けられたようです。

「アンタなぁ……そんなんaの前で言うたら、終わりやで?
 今までの噂とは比較にもならへん。破滅や。
 お泊まりの時は証人もぎょうさんおるしな」

「…………」

仮にUの懸念が誇大でも、万が一に備えておくべきだ、と思いました。

「○○、アンタこの世で一番好きな男は誰や?」

「お兄ちゃん」

反射的に答えていました。

「……もうアカン……」

Uはぐったりと身を伸ばしました。わたしはあわてて取り繕いました。

「今のは、兄妹として、だよ? それに、UとV以外には言わない」

「……アンタは言葉を省きすぎや。
 クソのaがその気になったら、なんぼでも話大きゅうできるで。
 ただでさえわたしらにはレズ疑惑があるんや。
 3人まとめて変態トリオちゅうことになる」

「……わかった。
 でも、どう言えば良いんだろう?」

黙り込むのは得意でしたが、ウソを口にするのは慣れていませんでした。
3人揃って、うーん、と腕組みして考え込みました。

「そや! アンタの得意技を使えばエエんや」

そう言われても、心当たりがありません。

「得意技?」

Uがにやにやしました。

「アンタの口癖やん。『なぜ?』『どういうこと?』て。
 あと、『オナニー?』とか相手の言葉をオウム返しにしたったら、
 アンタはしゃべらんでも相手が先回りしてくれるはずや。
 相手がしゃべり疲れたら、『知らない』とか『よくわからない』とか、
 いつもの澄ました顔で答えたったらエエねん。
 相手も根負けして突っ込んでこうへんやろ」

「U……澄ました顔、って、どういうこと?」

「そや、その調子や」

無意識のうちに使った得意技を指摘されて、ぐうの音も出ませんでした。

「最初っから『知らない』の一言で済ましたら『お高くとまってる』て
 言われるかもしれへんけどな、話をしたうえでやったら、
 せいぜい『変わりモン』と思われるだけやろ。
 どうせ今でもそう思われてるんやから、痛いことあらへん」

大いに異論はありましたが、わたしにも代案は思いつきません。

「でも……Vはだいじょうぶなの?
 Uは口から先に産まれてきたから、安心だけど」

「……アンタも言うようになったなぁ。
 Vは……まぁ大丈夫やろ。変に知恵つけたらボロ出るしな。
 コイツに好きにしゃべらしたったら、みんな煙に巻かれるはずや」

Vは不思議そうにUとわたしを見ていました。

結局、3人とも寝付いたのは、ずいぶん遅くになってからでした。
それでも、翌朝早く、わたしは息苦しさで目覚めました。

金縛りに遭っているのか、と一瞬思いましたが、なんのことはない、
Vが背中からがっちり抱き付いて眠っていただけでした。

「U……あなた、知ってたのね?」

昨夜さりげなく、UがVの反対側に寝た意図がわかりました。
Uは素知らぬ顔で、さっさと食堂へ逃げていきました。

眠い目をこすりつつ教会に行き、午後からはまたVの家で勉強です。
テストが目の前に迫っているせいか、Uもそれなりに真剣でした。
勉強会まで開いて成績が振るわないと、後々なにかと響くそうです。

テストが始まると、午後の授業はありませんでした。
林間学校まで、つかの間の平穏な時が流れるか……と思っていたのですが、
そう上手くはいきませんでした。

ある日の放課後、テストが終わってホッとしたわたしは、
トイレに行こうと廊下に出ました。

歩きながらなんの気なしに、隣の空き教室の扉の隙間に目をやって、
わたしは驚愕しました。UとVが、中で掴み合いの喧嘩をしていたのです。

(続く)

●連載136●
2001年11月4日 20時16分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」693-697)

仲の良い2人が本気で喧嘩しているのを見たのは、これが最初で最後でした。
自分の目に映った光景が信じられず、わたしは立ちすくみました。

でも、わたしが硬直していたのは、ほんの短い時間でした。
なんとしても、すぐに喧嘩を止めなくてはならなかったからです。

わたしは教室に駆け込んで、「やめて!」と声を掛けながら、
2人のあいだに割って入ろうとしました。

ところが、2人とも興奮していて、わたしの声が耳に届きません。
軽すぎて、非力すぎたわたしは、Vの振った腕に弾き飛ばされました。

わたしは覚悟を決めました。どんな手段を使ってでも、喧嘩を止めようと。
冷静に頭を働かせれば、最適な方法を見つけるのは簡単でした。

近くにあったパイプ椅子を、わたしは両手で抱え上げ、叫びました。

「人が親切に止めてるのに、痛いじゃないのぉおおお!」

そして、大きなモーションで、椅子をUとVの真ん中に投げつけました。
もちろん、2人が椅子をよけられるように、タイミングを見計らってです。

わたしがしようとしていることを見て取った2人は、
パッと両側に飛び離れました。

パイプ椅子は、2人のあいだを通過して、向こう側の机に激突し、
がらがらがっしゃーん、と大音響を立てて机をひっくり返しました。

わたしがUとVの顔を見回すと、2人は一目散に教室を飛び出しました。
わたしは計算通りの結果に満足しながら、机と椅子を元通りにして、
トイレに行きました。

トイレから自分の教室に戻ってみると、UとVが教室の隅に居ました。
2人は身を寄せ合って、なぜか怯えた目でこちらを見ました。

わたしは真っ直ぐ歩み寄り、2人に声を掛けました。

「U、V、さっきは、ごめんなさい」

「……も、もうエエんか? 怒ってへん?」

「なにが?」

2人が仲直りしたようだったので、わたしは嬉しくてにっこりしました。

「あ、あぁ……○○、こっちこそスマンかった」

Uはまだ顔色が優れませんでした。

「○○ちゃんこわかったよー。もうしないよー」

Vは半べそをかいていました。

「ところで、どうして喧嘩してたの?」

「…………?」

UとVは、お互いに顔を見合わせました。

「なんでやったっけ……?」

「忘れちゃったー」

2人とも、肝心の喧嘩の原因を、すっかり忘れているようでした。

「……忘れるぐらいなら、大したことじゃないね」

「そ、そうやな。喧嘩するやなんてホンマにアホなことしてもうた」

「そうだねー。もうケンカはいやだよー」

「せやけど、○○だけはもう怒らさんほうがエエな」

Vがカクカクとうなずきました。

わたしはさっきの椅子投げが、本気じゃなかったと言うつもりでしたが、
考えを変えました。

当分のあいだ、演技だったと言わないほうが、抑止力になりそうでしたから。
ただそのせいか、後でUとVに種明かしをした時に、
本気じゃなかったといくら言っても、信じてはもらえませんでしたが……。

テスト自体は波乱なく終わり、じきに答案用紙が返ってきました。
わたしの成績はいつも通りでしたが、意外なことに、
Vの点数のほうが平均してUより上でした。

Uは「なんでやーー!」と叫んでいましたが、
毎日欠かさず真面目に予習復習していたVが良い点を取ったのは、
考えてみれば当たり前でした。

そして、林間学校の1日目がやってきました。
1年生はいつもより少し早く登校して、校庭に列を作り、
チャーターした観光バスに乗り込みました。

わたしの乗り物酔いの癖は軽くなっていましたが、
長時間バスに揺られることに、内心不安を抱いていました。

(続く)

●連載137●
2001年11月5日 19時56分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」731-735)

バスの中で、わたしは一番前のシートに座りました。
本当は後ろのほうの席でしたが、乗り物酔いするかもしれないと漏らしたら、
先生が席を替えさせてくれたのです。

でも、緑の増えてくる外の景色を楽しむ余裕はありませんでした。
バスの揺れは思ったより激しく、旅館に着く頃には、ふらふらになっていました。
他の生徒が外で整列しているなか、わたしは先に部屋に案内されました。

一夜の宿舎となる旅館は和風で、ずいぶん古ぼけて見えました。
今時こんな設備でお客はくるのだろうか、と思いましたが、
学校の林間学校や合宿向けに、立地がちょうど良かったのかもしれません。

男子の部屋は2階、女子の部屋は1階に集められていて、
男子が女子の部屋に行かないように、階段の側に引率教師の部屋がありました。

旅館の廊下は板張りで、うちのクラスの女子の部屋は広々とした和室でした。
仕切りのふすまが取り払われて、二間続いた大広間になっていました。

ここは男子禁制の女の園です。

久しぶりの本格的な乗り物酔いに、胸がむかむかしていたわたしは、
ジャージのまま布団に寝かされました。

ふかふかの布団に身をゆだねて、しばらくぐったりしていると、
どかどかとクラスの女子たちの入ってくる音がしました。

「大丈夫かぁ?」

目蓋をあけると、UとVが枕元に立っていました。

「うん」

「まぁ、これから外で遠足やしな……アンタはのんびり寝とり。
 お土産に木の実でも採ってきたるわ」

けだるい頭で想像してみました。
どうしても、あやしげなモノを食べさせられそうな気がしました。

「いらない……」

「そうだよー。お見舞いにはやっぱりお花だよー」

花なら、見ているぶんには無害でしょう。

「ありがとう……」

「ねー?」

「ちっ……アンタ、友達を差別するんやな?」

「いってらっしゃい……」

騒がしい中学生たちがみんな外に出て、遠足に出発してしまうと、
旅館全体が静まり返りました。誰も居なくなったかのようでした。

1時間ほど横になっているうちに、気分が良くなってきました。
大広間は広すぎて、たったひとりで寝ているには寂しすぎました。

わたしは意味もなくふかふかの布団を出て、畳の上をごろごろ転がりました。
草のような、青い畳の匂いがしました。

部屋の端まで転がって、乱雑に置かれたバッグの山に当たりました。
がさ、という音が聞こえました。
どうやら、禁止されているお菓子を持ってきた生徒がいたようです。

端から端まで転がって往復すると、さすがに疲れました。
わたしは馬鹿なことをした、と自嘲しながら、もう一度布団に入りました。

そのまま昼寝していると、クラスメイトたちが帰ってきて夕食になりました。
騒がしすぎても、やっぱり人が居たほうが良い、と思いました。

夕食の後は、クラスごとに時間と順番を決めて入浴です。

わたしは小学校の修学旅行に参加できなかったので、
大勢のクラスメイトたちと一緒にお風呂に入るのは、これが初めてでした。

着替えとタオルを持って大浴場への長い廊下を歩きながら、
わたしは平静を装っていましたが、内心ではどきどきしていました。

入浴時間が限られているので、服を脱ぐのにぐずぐずしてはいられません。
周りを見ないようにして、わたしは手早く服を脱ぎ捨てました。

ガラス戸を開けて一歩進み、すぐに回れ右して脱衣場に戻りました。
中にいた全員が、タオルを持ち込んでいるのがわかったからです。

わたしはタオルで前を隠して、なにくわぬ顔で再び浴場に入りました。
大きな湯船に浸かっている子、体に泡を立てている子、
湯船の縁に腰掛けておしゃべりしている子、みんなが振り向きました。

わたしが見回すと、なぜかほとんどの子が目を逸らしました。
湯船に浸かっていたVが、手を振ってわたしを呼びました。
Uは入浴の組が違っているのか、姿が見えませんでした。

先に体を軽く流してから、湯船に入りました。

「V、のぼせない?」

Vの肌はピンク色を通り越して赤みを帯びていました。

「ふにゃー。気持ちいいよー。天国だよー」

だらけきったVは、クリスチャンにしては不謹慎なことを言いながら、
足を絡めてきました。
わたしは「もう」と言いながら、Vの伸ばした足の上に座りました。

Vとは前にも一緒にお風呂に入ったことがありましたが、
間近で見ると、やはり立派な胸でした。

周りを見回して、予想もしていなかったものが目に入りました。
意外にも、わたしより小さな胸のクラスメイトが居たのです。
それに、陰毛が生えていないのは、わたしだけではありませんでした。

わたしは内心ほくそ笑みながら、Vに声をかけました。

「背中流しっこしようか?」

「しよーしよー」

(続く)

●連載138●
2001年11月6日 20時27分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」760-764)

洗い場でVに背中をこすってもらっていると、ガラス戸が開き、
誰かが浴場に入ってきました。目を向けると、aさんでした。

わたしもUから話を聞いた後、aさんの顔を覚えていたのです。
aさんはわたしと目が合うと、声を掛けてきました。

「2人とも、仲がいいのね〜」

なんとも返答に困る、あざけるような声でした。
わたしは黙ってうなずきました。
aさんが話しかけてきたのは、覚えている限りこれが初めてでした。

「××さん、ダイエットし過ぎじゃない?」

aさんの視線が、胸に突き刺さったような気がしました。
aさんの胸や腰のまわりを見ると、ふくよかに肉が付いていました。

余分な肉を少し分けてほしいものだ、と内心で思いながら、
わたしはaさんの脇腹をじっと見つめました。

「わたし、ダイエットはしてない」

aさんはなぜか憤然として、湯船に近づき掛け湯をしました。
ばしゃばしゃと乱暴にお湯をかけるので、しぶきがこちらまで飛んできました。

Vがわたしの背中にお湯をかけながら、言いました。

「○○ちゃん、もうあがるー?」

「湯船でもう一度、あったまらない?」

「いいねー」

aさんの入っている湯船に、わたしたち2人も入りました。

「やっぱり大きいお風呂は気持ちいいねー?」

「そうね。遠足で足、疲れた?」

「ちょっとねー」

「後でマッサージしてあげる」

「○○ちゃん、マッサージできるのー?」

「お兄ちゃんにやり方、教わったから」

「お兄さんがいるといいなー」

「うん」

aさんは、黙ってお湯に浸かっていました。

「aさん」

「な、なに?」

わたしが話しかけたので、aさんは面食らっているようでした。

「お湯にタオル浸けたら、ダメ」

「……! うるさいわね。それぐらい分かってる」

どういうわけか、aさんはひどくイライラしているようでした。

「カルシウム入りのふりかけ、食べると良いよ」

ずっとお湯に浸かっていたせいか、aさんの顔が真っ赤になっていました。
aさんは返事もしないで、湯船から上がってそのまま出ていきました。

「aさん、お風呂で体、洗わないのかな?」

わたしがそう言うと、Vも首をひねっていました。

お風呂からあがって部屋に戻ると、異様に騒がしくなっていました。

「どうしたの?」

ちょうど側にいたUに尋ねてみました。
Uは可笑しくてたまらない、といった様子でした。

「うくくくく……アホな男子がおったんや」

「……?」

「隣のクラスでな、天井から男子が降ってきたんやて」

「え?」

「女子の部屋にこっそり遊びに来るつもりやったらしいけどな、
 畳をはがして天井裏に降りて、薄い天井の板を踏み抜いたんやて。
 ちょうど畳んだ布団の上に落ちたから怪我はせえへんかったらしいけど、
 天井のホコリが落ちてきて、部屋中真っ白になったらしいわ。
 あははははは、天井からどないして降りるつもりやったんやろな?」

確かに、その男子の計画には問題があると思いました。

「それで、どうなったの?」

「先生が飛んできて、連れて行かれたわ。たぶん、今夜はずっと説教やな。
 天井の修理代も請求されるやろし、ホンマにアホなことしたもんやで」

「そうね……ところで、あれはどういうこと?」

視線を部屋の奥に向けると、そこにはクラスの男子が数人居ました。

「あれか? 雨樋を伝って2階から降りてきたんや。
 天井から降ってくるよりはマシやな。
 差し入れのお菓子を持ってきよったから、歓迎されてるで」

「先生の見回りは、だいじょうぶなの?」

「さっき来たとこや。
 見張りが合図したら、男子を押し入れに隠すんや。
 かくれんぼみたいでオモロイで」

(続く)

●連載139●
2001年11月7日 19時54分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」784-788)

女子たちの姿を見ると、ジャージと旅館の浴衣が半々ぐらいでした。
私物のパジャマの持ち込みが、学校側から禁止されていたせいでしょう。
わたしは縞模様の浴衣が珍しかったので、着てみることにしました。

男子の居ない部屋に行って、着替えをしました。
簡単に帯を締めて戻ってくると、UとVがわたしを見て笑い出しました。

「ぷぷぷっ、アンタ、帯が下過ぎるで」

「…………」

襟元もゆるゆるでした。
Vが着付けを手伝ってくれて、ようやくそれらしい格好になりました。

3人でお互いにマッサージしたり、Vが持ち込んだお菓子を食べていると、
消灯時間になりました。
遊びに来ていた男子たちは、窓から出て外壁伝いに帰っていきました。

布団を並べて敷いて、天井の電灯が小さなランプだけになりましたが、
誰ひとりとして寝てしまう子はいませんでした。
Uが話していた、林間学校のメインイベントの始まりです。

同じクラスの女子たちが全員、1つの部屋に集まってきました。
もしかしたら他のクラスの女子も、何人か混じっていたかもしれません。

辺りは薄暗くて、お互いの顔がやっと見分けられるぐらいでした。
密集しすぎて、布団を敷き詰めた上に寝そべるスペースもありません。
声をひそめて囁きあう微かなざわめきが、異様な雰囲気を醸しました。

人数が多すぎて、収拾がつかなくなるんじゃないか、と思いましたが、
司会役というか仕切り役を、aさんが買って出ました。

議題は、Uの予想通り、好きな男の子の話と猥談でした。
普段なら口に出さないような秘め事が、場の雰囲気に流されて出てきました。

この雰囲気に包まれていると、今さら逃げ出すわけにもいきません。
わたしたち3人の順番は、部屋の隅に居たので最後になりそうでした。

好きな男の子の名前で意外な告白があったり、
真面目そうな女の子が頻繁にオナニーしていることをばらしたりすると、
部屋中で押し殺した歓声があがりました。
未だにオナニー自体を知らない女子が居たのには、わたしも驚きました。

密かに盛り上がる中、3人のうち最初に話しはじめたのは、Vでした。
aさんがVに尋ねました。

「Vさん、オナニーは知ってるよね?」

「いやぁーーわたしそんなことできなーい!」

Vが頭を振って身をのたくらせると、周りの温度が少し下がりました。
わたしは内心、「オマエは何歳だ?」と冷たく突っ込みを入れました。

aさんも呆れた様子でしたが、気を取り直して質問を続けました。

「Vさん、好きな男子、いる?」

「うん。○○ちゃんのお兄さん!」

Uとわたしは石化しました。わたしは眩暈がして、ほとんど卒倒寸前でした。

「××さんのお兄さん……? 会ったことあるの?」

「お兄さんはさすらいの騎士でー。王国を放浪してるんだけどー、
 冒険してるからまだわたしには会えないのー」

今度は部屋中の女子が、全員ぐったりと布団に倒れ込みました。
わたしは「空想の話!?」と心の中で毒づきながら、
Uに「ホントにこの子、だいじょうぶ?」と耳打ちしました。

Uは平然とした声で、囁き返してきました。

「Vはな、空想に生きてるんやのうて、
 現実を空想にアレンジしてるだけなんや。問題あらへん。
 翻訳するとな、
 『○○ちゃんのお兄さんは超カッコ良くてー、憧れなんだけどー、
  遠くにいるからまだ会えないのー』
 ちゅうこっちゃ」

さすがに付き合いの長いUにだけは、理解できていたようです。
わたしはまだまだ、自分は修業が足りない、と思いました。

「まぁ、あんまし気にせんとき。
 Vに言わせるとな、普通に言うたら夢がないちゅうことらしいわ」

わたしは「時と場合を考えてよ!」と思いましたが、口にはしませんでした。
かなり盛り下がってきたところで、わたしの順番になりました。

わたしが「オナニー? どうして、そんなことするの?」とか、
「好きな人? 好きって、どういうことを言うの?」と逆質問を
連発していると、だんだんaさんのこめかみがひくひくしてきました。
やっぱりaさんは、カルシウムが足りていなかったようです。

「××さんってモテるんでしょー? 男子のbに色目使っちゃって」

この前のUの話の後、わたしはb君の顔を見分けるために、
しばらく眺めていたことがありました。
わたしが黙っていると、aさんはさらに畳みかけてきました。

「わたし、bが××さんに告るって言ってるの、聞いちゃった」

周りの女子から、どっと小さな歓声があがりました。
わたしはb君のことは根も葉もない噂だと思っていたので、
今耳にしたことが本当かどうか、半信半疑になりました。

aさんが身を寄せてきて、小声で言いました。

「今度は、しばらく付き合ってから、相手が自殺するような振り方
 しちゃダメよ。死んでもアンタなんか嫌だ、とか」

明らかに、R君の噂を下敷きにした当てこすりでした。

(続く)

●連載140●
2001年11月8日 20時3分 初出(「一番身近な異性・兄弟姉妹の想い出〜Part6」799-803)

あからさまな嫌みを耳にして、わたしは怒るよりもむしろ呆れました。
どうしたらこんな露骨な悪口を、面と向かって口にできるのか不思議で、
aさんの顔をまじまじと見つめました。

わたしが何も言い返そうとしなかったせいでしょうか、
aさんは勝ち誇った様子で離れていきました。

わたしはどうにか無事にやり過ごせた、とホッとしました。
aさんが、順番の最後に当たるUを指名しました。
わたしはUの横顔に気づいて、無事には済みそうにない、と悟りました。

Uの表情は、今までに見たこともない憤怒に燃えていました。
aさんがわたしに囁いたことが、Uにも聞こえていたようです。
人一倍友情に篤いUには、aさんの言葉が許せなかったのでしょう。

わたしはもっと早く、それに気づいているべきでした。
このままだと確実に、Uが噴火してしまいます。
わたしはUの肩に手を置いて落ち着かせようと、腕を伸ばしました。

でも、少しだけ手遅れでした。
Uはaさんに向かって、とんでもない暴言を言い放ちました。

「アンタみたいな×××った×××××に××××なんか、
 ×××××××わー!!!」(諸般の事情により伏せ字)

部屋中に響く大声でした。瞬間、空気が凍りつきました。
aさんは立ち上がって、目をまん丸に見開き、ぶるぶる震えだしました。

aさんに続いて、aさんの取り巻きも立ち上がりました。
どう考えても、今にも喧嘩が始まりそうでした。
いや、喧嘩にもならず、一方的に袋叩きにされそうです。

一対一ならUがaさんに負けるとは思いませんでしたが、多勢に無勢です。
双方の人数の比率は甘く見つもっても10:3でした。
Vとわたしが味方をしても、大して戦力にはなりません。

Vは雰囲気に呑まれて、すっかり度を失っているようでしたし、
わたしは客観的に見て、クラスの中で戦闘力最低でした。

わたしは、Uはなにを考えているのだろうか、と思い巡らせて、
たぶんUはなにも考えていないだろう、と結論を下しました。

こうなってしまっては、仕方がありません。
どんな手段を使ってでも、開戦を回避しなければならない、と思いました。

わたしは素早く辺りを見回し、必死に頭をフル回転させました。
すぐに答えが出て、行動に移ろうと腰を浮かせた瞬間、
Uがポケットから秘密兵器を取り出して、aさんの鼻先に突きつけました。

なんのことはない、手のひらに包める大きさの防犯ブザーでした。
Uが囁くような声で、aさんに啖呵を切りました。

「寄ってたかって袋叩きにするつもりやったら、これ鳴らすでぇ。
 凄い音がするさかいな、先生が飛んでくるやろなー。
 ケンカ両成敗って知ってるかぁ?」

機先を制されたaさんは、身動きができなくなりました。
UとわたしとVの3人は、蝋人形のように固まった人影のあいだを抜けて、
悠々と廊下に脱出しました。

薄暗い廊下を歩きながら、わたしはUに声をかけました。

「まったく……なんて無茶するの」

Uは悪びれもせず答えました。

「かめへんやん。aのヤツ、真っ青になっとった。エエ気味や」

「わたしのために、怒ってくれたんでしょ?
 嬉しいけど、はらはらした」

「こわかったよー」

Vはもう泣きそうでした。

「ふふん、備えあれば憂いなしや」

「これから、どうするつもり? 今さら部屋には戻れないし?」

「そやなー、どないしよ? 男子んとこ行って布団借りよか?」

「もう……しょうがない。先生の部屋に行きましょ」

「なんて言うつもりや?」

「まかせて」

わたしは林間学校の引率に同行していた、保健の先生を訪ねました。

「どうしたの? こんな時間に」

「気分が悪いので、ここで寝かせてください」

「そう……いいけど、後ろの2人は?」

「付き添いです」

先生はしばらく黙っていましたが、結局3人とも部屋に寝かせてくれました。
先生がどこまで事情を察したのかは、わかりません。

わたしたち3人は緊張から解放されて、夢も見ずに眠りに落ちきました。
翌朝目覚めると先生の姿がなかったので、Uに昨夜のことを尋ねました。

「あの時、ブザーを出すより早く、問答無用で襲われてたら、
 どうするつもりだったの?」

Uは不意を打たれた様子で、答えました。

「あ、それは考えてへんかった」

わたしは思わず、ぐったりしました。

「はぁ……。最後の手段を使わなくて済んで、良かった」

「なんやそれ? アンタもなんか用意してたんか?」

(続く)


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